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05 >> まみれた朱を濯ぐのは  [1/2]

痛む体に鞭を打ちながら、階下へと降る道を見下ろす。
先ほどあんなにドタドタと容易く上がれた階段が、今やこんなにも長く険しい道のりになるとは思いもよらなかった。
クナイが刺さったままの右肩と左腹からは絶えず朱がこぼれ落ちる。玲魅の部屋も、階段も、廊下も、何もかもが彼女の忌み嫌う血でまみれてしまった。

――あぁ、私は最低なやつだ。

所詮、先ほどの攻防も結局歌淋はあの忍に見逃されたに過ぎない。守るなんて大口を叩いておいて、結局は何も守れていない。今だって、玲魅は丸腰であの危険な奴らと一緒にいる。それがどれだけ危ないことなのか、分かっていたはずなのに。

私はこんな自分の痴態を見られることが嫌で、玲魅を、あいつらと一緒に先に行かせた。

最低だ。いっそ死んでしまうべきなのかもしれない。
……いいや、死を償いとするなんて身勝手だ。それこそ最低の行為だ。
遺された玲魅は、結局あの危険な奴らの中に一人で放り出されたままになってしまうのだから。


「死ぬな、生きろ……生きて、ちゃんと、最後まで――」


傷口が熱い。アドレナリンのせいなのか、傷自体の痛みはそれほど感じないが、頭ごと全身を壁に叩き付けられたからか、頭痛がひどい。頭が割れそうだ。
気力だけで、一段ずつ階段を下りていく。早く行かなきゃと逸る気持ちと、動けない身体が喧嘩して、足が縺れた。
ぐらりと視界が歪んで、重力がはっきりと感じられた刹那――白く染まる視界と、衝突音が交じり合った。


「――っっ!!」


息が止まるほどの衝撃と、全身に巻き起こる激しい痛み。目の前をちかちかと星が飛んで意識が旅立ちそうになるが、腹部に生じた鋭い痛みが意識を飛ばせてはくれなかった。ぬるっとした生暖かい液体が、うつ伏せになった歌淋の体の下に水たまりを作っていく。
とにかく息を吸わなければ、そう思っているのに、呼吸をしようとすると腹部が何かに貫かれたように痛む。なぜ。あぁ、確かそこにはもともとクナイが刺さっていたままで、あぁ、もしかして。

――本当に死ぬんじゃないのか?

脳が思考をやめそうになった時、乱暴に扉が開く音がした。開いた扉の衝撃で受ける風が生ぬるい。


「歌淋っ!!」


階段からうつ伏せに落ちた。
そう理解したのは、薄らと戻ってきた視界に映る玲魅が、緊迫した声で名を呼びながら歌淋のすぐ傍にしゃがみ込んできたからだった。


大丈夫だ。


そう言おうと口を開きかけて、自分が下敷きにしている水たまりが、鉄臭くて朱いことに気が付いた。うつ伏せに落ちたから、刺さったままだったクナイが内臓を貫いたのだろう。

廊下までこんなに血で汚してしまった、ごめん。

そう謝りたいのに、意識が朦朧としてくる。あれ、さっきは飛ばせなかった意識が、玲魅を見たら急に……眠くなってきた。

玲魅が震えながら名前を呼んでくれているのが分かる。血まみれの体なのに、歌淋の背中をさすってくれている。
その後ろから必死で声をかけてくる鬼、手当てをと騒ぐ風来坊、そして我関せずと言ったふうに離れたところからこちらを見下ろしている忍と竜。
死ぬ間際ってのは、こんなにも周りがよく見えるものなのだろうか。


『あとは任せてよ、歌淋』


懐かしい声が、耳元で囁いた気がした。

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