突然だった。期待のこもった元親の問いに何かを答えようと思案していた玲魅の耳に、何かが転げ落ちるような鈍い音が届いたのは。
「Ah? 今のは何の音だ」
「地響きみたいな、すごい音だったね」
政宗と慶次が揃いも揃って廊下の方に目線を向ける。あまりに同時に首を動かしたものだから、平時であれば、仲良しさんですか!と突っ込みを入れているところだ。
だが今は、佐助からは敵意と疑惑、政宗からは疑惑、元親からは不安と期待、慶次からは不安と興味を抱かれており、決して信用も信頼もほど遠い関係性にある。そもそも、これからも信用や信頼といった安心できる関係性を築くことができるのか、玲魅には自信がなかった。
いや、今はまず音の根源だ。何かが転げ落ちるような鈍い、音――まさか。
「オイ、アンタ!」
元親の制止を背に受けながら、玲魅は廊下へと続く扉をありったけの力を使って荒々しく開いた。
バンッと部屋中に響き渡る扉と壁がぶつかる音に気にも留められないくらい、目の前に広がる光景は予想通り悲惨だった。
「歌淋!!」
慌てて駆け寄り、顔を覗き込む。生気を失ったような血色のない顔色で、呼吸がうまくできないのか口をぱくぱくとさせている。
恐らく階段の上から転がり落ちたのだろう、腹部に刺さったままだったクナイが落下の衝撃で内臓を貫いて、痛々しく朱をどくどくと吐き出させていた。肩に刺さっていたクナイは幸か不幸か廊下に転がっている。
先ほど二階で見かけた状態が比にならないくらい、今の歌淋が生死の狭間を彷徨っていることは一目瞭然だった。
「こりゃあもう、ダメだろうね」
後方から佐助の感情のない声がして、息が止まる。全身が、震える。
視界に映るものが色を失い、ぴたりと動きを止めたように動かなくなった。――否、実際は動いているのだが、玲魅はこの現実を拒絶し始めているため、そのように見えてしまっていた。
「歌淋、歌淋っ、嫌っ、死なないでっ!」
悲痛な声でただただ名前を呼ぶ。
何をしたらいいのか分からない。だってこんな出血……どうしたら。どうしたら助かるの。助けられるの。
脳が思考を止めてしまう。受け入れられない現実を拒絶する。
だって歌淋が死んだら、私、どうしたらいいの。
いくら好きなゲームのキャラクターがトリップしてきたって、私じゃ手に負えない。
歌淋が一緒にいてくれるから、私は頑張れるのに。
いやだ。一人にしないで。消えないで。まだ私は、あなたに何もしてあげられてないのに――
「オイ! しっかりしろ!」
怒号と共にぱんっと背中を叩かれて、玲魅は我に返った。色が、音が、現実が、戻ってくる。
思わず後ろを振り向くと、そこには子分たちにアニキと慕われる海賊が怒ったような顔でそこにいた。
「大事なダチなんだろうが、しっかりしやがれ!」
「は、はいっ! すいません!?」
突然の説教に反射的に返事をすると、元親は怒気を鎮めてその隻眼を細めた。
「止血しなきゃ、布とかない!?」
味方でも何でもないのに、こう声を上げてくれる元親と慶次のおかげか、玲魅はすっかり冷静さを取り戻し、震えも治まっていた。
――そうだ、救急車を呼ばなきゃ。
「あっ、布なら私の服を」
言いながら自分の服を破ろうと手をかけたその時。
眩い光が歌淋を包み込んだ。
まるで夢みたいな――例えるなら神が降臨したような、そんな光景だった。
思わずフリーズした玲魅と違い、武将たちはこういうことは見慣れているのか、訝しそうにするものの、そこまで驚いた様子は見せなかった。普段、雷や炎を扱って戦っているのだから当然かもしれない。
光が一点に集まり、人型を形成していく。そのまま収束した光が霧状に飛び散ると同時に、一人の男が現れた。
深々と被った白いフードの中から、ギラリと光る紅の瞳が覗く。
「えーっと、お初にお目にかかりマス、だっけ? オレ、神サマです」
政宗の言葉を借りるなら、まさに、crazyな男だった。
まみれた朱を濯ぐのは、クレイジーな光
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2017/02/01