03 >> 色彩豊かな非現実 [1/3]
歌淋は竹刀を左手に持ったままその鎧を着た者を見た。俯せな為顔は見えないが、青、紫、黄という頓珍漢でどこか見覚えのある背中に、一つの可能性を見出した。
「……まさかトリップか?」
六爪、碇槍、超刀。
個々の武器を見てそれは確信に変わった。こんな変わった武器を持つ戦国武将はゲームの世界くらいだと思いたい。
そうして思案を深める内に呻き声が聞こえ、転がっていた鎧達が動き始めた。正式に言えば鎧を着た3人の人間が起き上がった。歌淋は息を潜めるようにそれらを見下した。
「…Ah?」
「あん?」
「…え?」
各々の第一声はそう短いものであった。それから近くに居る知人に気付き驚きの声を上げた。
「西海の鬼!?」
「独眼竜!?」
「あれ、竜と鬼がお揃いでどうしたんだい?」
そうして互いを確認し合った3人の視線は歌淋を捉えた。敵を見るような目。それでも殺気は抑えている方なのかそこまできつく感じない。歌淋は僅かに殺気を出しながら静かに口を開いた。
「問われる前に先に言う。私は貴様等がこの場にいる理由を知らない」
歌淋を見る視線が鋭くなった。それでも事実なのだからこれ以上どうしようもない。
逆トリップを説明したとて、こいつ等には理解が出来ないだろうし。
「アンタ以外の誰なら知ってるってんだ」
「さあな。自分で見つけろ」
「冷たいなぁ…」
「テメェは誰なんだよ」
政宗の問いに思わず笑いが込み上げた。決して乱心した訳ではなく、これでも一国の主かという嘲りを含めての事だ。武将達はその姿に驚いたように目を見開き、刀に手を掛けた。それを目で制すると、歌淋は再び口を開いた。
「人に名を聞く前に貴様等が名乗ったらどうだ?」
「何だよ偉そうに」
「まあまあ落ち着きなよ独眼竜。名乗ったからって減るもんじゃないだろ?」
ドンッ
幸村が名乗っている最中に2階から何かが壁にぶつかったような小さな音が歌淋の耳に届いた。思わずばっと2階を見る。
「玲魅…!?」
歌淋はそう小さく呟くと、2階に向けて走り始めた。
「なっ!?何処へ!?」
「テメェ、何処行くつもりだ!」
「おい!あれ見ろよ!」
歌淋を追い掛けようとした2人はある物を見つけた慶次に呼び止められ、階下に留まった。
「これってもしかしてよ…」
玲魅は背中に伸し掛かる体重の所為で息苦しさを感じていた。背中に乗っているのは見覚えのある人達。
多分だが戦国BSRの猿飛佐助。所謂逆トリップという奴だろう。
玲魅は無駄だと分かっていながら手足を僅かにばたつかせた。
「私このまま死ぬんじゃないかなあ…」
もし起きたとしても逆トリの王道パターンがある。歌淋に助けを呼ぶのも難しそうだ。
はぁと諦めたように溜め息を吐いていると、呻き声と共に背中に乗っていた体重が無くなった。しかし新たに乗っかる体重。そして金属音に加えて痛む首元。
「ッ!?」
「はいはい、動かないようにね〜」
背中、しかも肺の上に乗られて首元にクナイを突き付ける佐助。
予想的中してしまった。
動きたくても動けないよ!アンタの所為で!
「何で攫ったの?」
たった一言。しかし明らかに殺気の籠もった問い。玲魅は答えようにも咳き込む事すら許されず、ただ荒い息を吐いた。訳も分からず涙が出てくる。
「はッ、あ…ぐっ!」
「質問に答えてよ」
アンタがそこに乗ってるから答えられないんだってば!
それを知ってか知らずか、佐助はどんどんクナイを首に食い込ませていく。息苦しさが増し、段々意識が朦朧としてくる。
「ぐ…ッ!」
「女だからって容赦しないよ?」
「っは、…っ!」
最早睨む事すら叶わないこの状況で自由なのは左手と両足。足をばたつかせた所で無駄に終わるのは分かっている。玲魅は見える範囲の物で何か手の届きそうな物を探した。首を動かす訳にはいかない為、目だけ探す。
(目覚まし時計…!)
玲魅は一番近くにある目覚まし時計を見つけた。手足が痺れるのを感じる。
動けなくなる前にと玲魅は目覚まし時計を左手で素早く取った。
これを壁に投げつければ音が鳴る。その小さな音に歌淋は気付いてくれる。
そうだ、歌淋なら絶対に気付いてくれる。
玲魅は目覚まし時計を出来得る限りの最大の力で壁に投げつけた。
ドンッ
虚しい程の小さい音。本当に階下の人に音が聞こえるのか怪しい程だ。
「アンタ何してんの?」
痺れを切らした佐助にぐっと掛けられた体重が肺を更に圧迫する。それに加えて首に食い込まれたクナイの所為で僅かながら出血しているようだ。玲魅は息が出来なくなった。
助けて、歌淋…!
「玲魅!!!」
そこに駆け込んで来たのは望んでいた救世主だった。