03 >> 色彩豊かな非現実 [2/3]
階段を駆け上がり扉を開けた瞬間、歌淋は目を見開いた。
見覚えのある迷彩。予測はしていたが、本当に手間の掛かる奴が来てしまったらしい。
「玲魅から離れろ」
玲魅が踏みつけられている。様子からして呼吸も儘ならない状態だろう。怒りと共に抑えていた殺気を放ち、迷彩の目を射抜くように見た。このまま視線だけで奴の目を砕けたらどんなに嬉しい事か。しかし幾ら射抜くように見ても目が砕ける事は愚か、玲魅の上からも退きやしない。歌淋は竹刀を腰から引き抜いた。
忍はこちらを観察しているらしく、クナイこそ構えているが動く気配がない。歌淋は痺れを切らしたように斬り掛かった。ガキンという嫌な音と共にクナイで受け止められる。
「離れろって言ってんのが聞こえないのか」
女としてどうかと思うが、自分でも少し驚く程の凄む様な低い声が出た。忍はそれを物ともせずにこちらの目を見据える。
「じゃあアンタが説明してくれる?」
「んなこたァどうでもいいんだよ!とっとと離れやがれ!!」
カッと血が上った。今にも玲魅が死にそうになっていると言うのに!
忍びが玲魅を一瞬見遣った、その隙を付いて弾き飛ばしてやった。慌ててうつ伏せている玲魅を起こし、呼吸をさせてやる。血が出ているがそこまで大怪我ではないらしく、少量で済んでいた。
「玲魅っ、大丈夫か!?」
「げほっ、げほげほっ!」
咳き込む玲魅の背を擦ってやると少しは楽になったのか、笑い掛けてきた。
「ありがと…歌淋…」
ほっとして思わず頬が緩んだ。すると背後から冷たい気配を感じて竹刀で振り払った。当たらなかったが、どうやら忍びがクナイを向けてきていたらしい。
「で、何で攫ったの?」
向ける視線。向けられるクナイ。互いの殺気が絡み合った。
歌淋は竹刀を握り直し、空いている手で視線を向けないまま玲魅の頭を撫でる。そして問いへ返答した。
「下衆野郎共にも言ったが、俺等は何にも知らねぇ」
玲魅が一瞬びくっとしたように肩を揺らした。あやす様に頭を撫で、名残惜しいと思いつつ玲魅から手を離す。軽い戦闘体勢に入ってから続きを紡いだ。
「貴様等が勝手に降ってきた、そして何の罪もない玲魅を傷付けたんだ!」
歌淋は吐き捨てるように言うと、俊敏に立ち上がり竹刀で斬り掛かった。クナイで応戦される。どうやら私の斬撃はクナイで押し止められるらしい。自分の無力さに反吐が出る。歌淋は竹刀を力一杯押し付け、懐から短刀を出した。本当は出したくなかった。玲魅に血を見せたくない。だが本当に斬れる物でないとこいつには叶いやしないだろう。然しそれをもクナイで受け止められあしらうように払われた。斬れる物でも叶いやしないようだ。それでも歌淋は得意のバランス感覚を生かし、よろけずに再び斬り掛かった。
「俺は忍が一番嫌いなんだよ、愚図野郎!!」
あと少しで届く――と思った瞬間
「歌淋、止めて!」
玲魅が叫んだ。傷が痛むだろうに態々立ち上がって私に向かって、諭すように。
「彼は悪くないの!混乱してただけなのよ!」
忍は驚いたのか呆れているのか、複雑な表情を浮かべている。歌淋は短刀を構えたままそれを聞いていた。怒りは治まらない。反論するように口を開いた。
「玲魅を傷付けた時点でそんな言い訳は通用しない!」
「いい加減にして!!」
放っていた殺気が一気に弱まり、思わず敵から目を離した。視線が玲魅を捉えたか捉えなかったかという瀬戸際に短刀を払い退けられ、右肩にクナイをぶち込まれた。それまでと違い、容赦のない攻撃だ。
「あっぐ!!」
「歌淋!」
体勢を整えようとよろける。隙だらけだった腹へクナイをぶち込まれた。同時に壁に叩きつけられる。
歌淋は傷口の熱を感じながら忍を睨んだ。どくどくと血が流れる感触が気持ち悪い。
『歌淋、ほら――』
軽くフラッシュバックを起こしかける。思い出したくない、止めろやめろ――ヤメテクレ!
爆発するように己の体から鋭い殺気が迸るのが分かった。心配して駆け寄って来た玲魅がびくんと肩を大きく揺らし、怯えるように歌淋の目の前で床に崩れ落ちた。
ああ、怖がらせてしまった。ごめんな、玲魅。
抑えろ、頼むから。私はもう、壊れる訳にはいかないのだ。
殺気が治まったのを感じ、歌淋は玲魅に笑い掛けた。
「すまん、大丈夫か玲魅」
「あっうん!」
怯えた目をしていた玲魅は上擦ったように応え、心配そうにこちらを見た。
「あの、歌淋こそ大丈夫!?凄い血…」
「平気だこれくらい。触るなよ、菌でも付いてたらマズいからな」
クナイでついた傷だ。菌が付いていても可笑しくはない。忍を見遣ると考え込むように虚を見つめている。
説明、するか。
歌淋は息を吐いた。