掴みかけた手
>> 震えるその手に、ためらう [2/4]
翌日から、甘味屋に行くとひよりが接客してくれるようになった。
「真田さん、いらっしゃいませ」
いつもの、あの柔らかい笑みで。
そして二人でいつもの木陰に行った。殆ど毎日。他愛ない話をしながら。
佐助に『帰りが遅いと俺様が大変なんだよね〜』と咎められたのはまた別の話だ。
そんなある日、いつもの木陰でひよりは言った。
「真田さんは……優しいですよね」
某が?優しい?
「何故そう思われるのでござるか?」
「いつも……こんな所まで着いてきて下さいます。それだけで私、凄く嬉しくて」
ひよりは俯いていて、どういう表情をしているのかは分からない。
「今まで……私…一人でしたから…ッ」
ひよりの身体は小さく震えていた。それが彼女の悲しみを深く表している。
「私、本当に…っ…寂しく……て、っ父上に、迷惑ばかり……かけてしまって」
某は思わずひよりの頭を撫でていた。震える身体を静めるように、一定の感覚でそっと。柔らかい髪の感触を確かめるように。
「某はひより殿の、笑っている姿の方が好きでござる」
「……ありがとう、ございます」
彼女は小さくはにかんだ。つられて某もはにかむ。
そしてそのまま固まった。ふと自分の手を見遣る。彼女の頭の上、髪に触れている、己の右手を。
「は、は……破廉恥ィイイ!」
ひよりは涙混じりの顔で笑った。
「あっそろそろ帰らないと。父上が心配します」
「おぉ、そうでござるな」
佐助が捜してるやもしれぬ。
「よいしょ……っ!?きゃあっ!」
一瞬の出来事だった。ひよりが足を滑らして崖から落ちたのだ。とっさに某は手を伸ばした。
――が、
(手を掴んでいいのであろうか?)
その一瞬の躊躇いが、ひよりを……。
「ひより殿!ひより殿っ!しっかりして下され!」
ひよりは崖を数尺ほど転がり落ちてしまった。ぐったりして動かない。辛うじて息をしているような、誰が見ても危険だと分かる状況だ。
「某が屋敷までお運び致す!」
雄叫びを響かせ、某はひよりを抱きかかえて走り始めた。