その前に
>> どうかそれをわかっておくれ [3/6]
翌朝、私は慶次さんの布団の中で目覚めた。
「このまま寝ちゃったんだ…」
隣に慶次さんは居なかった。
私は不意に寂しくなった。こんな事は、慣れている筈なのに。
「慶次さん…?」
私はふらふらと布団から出て、襖を開け、彼を捜した。
「慶次…さん…っ」
私は、最後の望みをかけて、大部屋の襖を開けた。
美味しそうな匂いが鼻を掠める。
「あら、起きたの?」
見た事のない女の人が、お玉を片手に此方を見ている。
「ん?あ」
慶次さんは、椅子に座って朝餉を食べていた。
「慶次さ…っ」
私は無意識に慶次さんに抱きついていた。寂しさから出た行動だろう。
「っ!?」
慶次さんは一瞬驚いたが、状況が解ったらしく、笑顔を見せた。
「この人はまつ姉ちゃん。美味い飯作ってくれるんだぜ。怒ると怖いけどな」
検討違いな答えに、私は抱きつくのを止めた。まつさんは私が抱きついた意味に気付いたのか、ため息をついた。
「慶次、口を慎みなさい!」
まつさんは慶次さんの片頬を摘まんだ。
「い゛ららっ!まふへえひゃん、いはい!」
どうやら"まつ姉ちゃん、痛い!"と言いたいらしい。
私はそんな慶次さんを見て、クスリと笑った。
「さ、貴女も食べなさい」
まつさんは慶次さんの頬から手を離して、私に席を勧めた。
「…いただきます」
言われた通り座ると、美味しそうな味噌汁が差し出された。
「味噌汁…?」
私はそれを受け取って、恐る恐る口を付けてみた。
「…!!…美味しい…」
「だろ?」
あまりの美味しさに思わず声が出た。それに対して返事をしたのは、慶次さんでもまつさんでもなく…
「…??」
「まつの料理は三国一だからな!」
「まあ、犬千代様!嬉しゅうございます!」
キョトンとしてる間に2人の世界になってしまい、私は助けを求める様に慶次さんを見た。
「利だよ。前田利家。まつ姉ちゃんの旦那さ」
旦那さん…利さんって呼んだらいいのかな。
「やっぱ、恋は良いよな〜」
慶次さんは嬉しそうな笑顔で言った。
「…恋…?」
キョトンとする私に、慶次さんは笑いかけた。
「何れ解るよ」
何れ…それが何時来るか分からないけど、"恋"と言う摩訶不思議な物が、私にも解る時が来るのだろう。