「春を探しに行きませんか?」
いつでも唐突で、なかなか真意が掴み辛いのが紫苑殿であるが、今回は殊更に難解であった。春、というのは四季の一つであり、訪れを感じこそすれ、探すものではないからだ。
「…春を、か」
「はい。暖かくなってきましたし、きっと色んな春が見つかると思うんです」
その言葉で、彼女の言う「春」というものが、朧気に理解出来た。芽生え始めた花であったり、活動を始めた生き物であったりするのだろう。そういう事なら、と私は快諾した。このところ執務ばかりであったから、偶には良かろう、と。
「あったかいですね」
「そうだな」
風はあったが陽気は至って穏やかだ。ゆるりと歩を進めれば、そこかしこに萌え出づる
緑が窺える。土手沿いに何かを見つけたらしい紫苑殿が、しゃがみ込んで小さく笑った。
「一つ目の春です!」
「蕗の薹、だな」
「春らしくて好きなんですが、どうも苦くて…官兵衛殿は如何ですか?」
「春の山菜は苦い。そういう物なのだと思えば問題は無いだろう」
「確かに…そうかもしれません」
あっ、二つ目、と紫苑殿の視線を追えば、白や
黄の蝶々がひらひらと飛んでいる。ならば花は、と地面に目をやると、案の定蒲公英が綻んでいた。
「思ったより咲いているものだな」
「そうですね、黄色が鮮やかで綺麗です」
目映い迄の
黄色は
土色の大地によく映える。遠くを見渡せば、桜であろうか、仄かな
薄桃を身に宿した木々があった。満開とは言い難いが、それも彼女の言う「春」に数えられるであろう。
「…、紫苑殿」
「はい?」
「耳を澄ましてみよ」
黙り込んだ私達に、ほぅほけきょ、と朗らかな鳴き声が届いた。姿は見えぬが、恐らく
緑褐色の小鳥が近くで囀っている筈だ。
「可愛い声ですよね、鶯って」
「春告鳥とも申すな」
「まさしく春、ですね」
驚かさない為の配慮なのか、声を潜めた紫苑殿に合わせて、小さく会話を続ける。何とも日和った時の過ごし方だ、と頭を過ぎった考えも、
薄藍色の澄んだ空と紫苑殿の嬉しげな表情を見れば、瑣末な事だと片隅に消えた。
君と春はよく似ている
ふわふわり、と心地良い
―――――――
母上と一緒のおさむお兄さんが歌う「春の風」という歌が昔から好きで、そのイメージで書いてみました。
「ほんわかふんわかそろそろり、春はきています」のフレーズが特に大好きです。ほっこりする。
意識して色を取り入れてみました。和色好きです。
20110409
天倉