09:トップシークレット

(う、う、うわあ……)

ふと、松野家大宝探し大会を開催しようと思い立った。ポチ袋を6個用意して、それぞれに10円から1万円までの現金を入れて封をする。これを、松野家の至るところに隠して、我が家の可愛い六つ子達に探させるというものだ。誰が一番高いやつとれるかなあ。やっぱり規格外の動きができる十四松か、狭いところも高いところも通れる一松かな〜。なあんて、意気揚々とポチ袋の隠し場所を探すと、あの、えーと何だろう。恐らく弟たちのであろう、アダルト雑誌を次々に発掘してしまった。隠そうとした6箇所全てから出てきたので、多分これ六つ子全員コンプした。こんなところで兄弟の血の繋がり感じたくなかった……!
……今日は珍しく六つ子が揃っていないんだよなあ。多分、パチンコか競馬だろうけど。……弟の好みが、この雑誌にすべて詰まっている……。ちょ、ちょっとだけ……参考文献として、ちょっとだけ拝借しようかな……。
なあんて、思ってしまった数分前の私を全力でビンタしたい。序盤からアクセル全快なグラマラスレディー達に目を奪われていたら、ふいに玄関の扉が開いた。多分一瞬心臓口から出たと思う。なんでせめて二階に行かなかったんだろ。一階の居間で、障子も閉めずに読みふけっていたから、完全に六つ子の視界に私の背中が映ってしまった。

「CRただいまー!」
「あ!なまえ姉さんだ!」
「本当だ……寝てる?」
「ぽいね」

まずいまずいまずいまずい!!!咄嗟にアダルト雑誌抱え込んでテーブルに突っ伏したけど、ここからどうしよう!?六つ子が全員二階に行ってくれればそのすきに別の場所に移動することも出来るけど……!

「なまえ、寝るならせめてソファーで寝なよ。首痛めるよ」
「ねーさーん!」
「なまえ姉さーん!かわいい弟が帰って来たよー」

そうだよねー!こいつらが思惑通り動いてくれるわけないよねー!知ってた!!分かってた!!だって兄弟だもん!!

「こんな爆睡することある?」
「フッ……それじゃあ俺がプリンセス運びで二階まで運んでや「くすぐっちゃおうぜ」えっ」
「確かに!」
「こんなところで無防備に寝てるのが悪いんだぞー」

や、や、やばい!弟たちの手が、脇腹とか、首とか、足の裏とか、いろんなところくすぐってきて、笑いそうになるけど、我慢……!我慢しなきゃ……!

「ねーさんどっすかー!」
「ほらほらほらー」
「ひひっ耳に猫じゃらし……」
「オーイいい加減起きてんだろ!観念しろ!」
「ひゃ、あはははは!だめだめ!あー!ギブギブー!……あ」

真後ろに座っていたおそ松にもたれるように体を起こした。しまった。とたん、六つ子達の視線はテーブルの上に注がれる。嘘みたいな静寂。あ、あ、六つ子がおんなじ顔してる……!やばい……!

「ごめんなさい!!何か盗もうとしたとか部屋のなか漁ったとかじゃなくて!たまたま!宝探しの宝を隠す場所探してたら見つけちゃって!それで、興味本意で……ちょっと……見ちゃいました……!本当にごめんなさい嫌いにならないで!!!」

もう、土下座だ。土下座しかない。怖くて頭が上げられない。いよいよ嫌われたかもしれない。そりゃ嫌だよね、こういうのって絶対隠したいことだよね。それなのに私は、好奇心に負けて、弟たちを傷つけるようなことをしてしまった。最低だ。縁を切られてもおかしくない。いやだ。六つ子のお姉ちゃんでいたい。まだ皆のそばにいたいよぉ……!

「ちょちょちょ!なまえ姉さん顔上げて!」
「トド松……ごめんなさいい」
「わかった、姉さんに悪気がなかったことは十分わかったから」
「わああごめんなさいい」
「よしよし、大丈夫だから」
「うううこわかったよぉ……みんなに嫌われたと思った」
「姉さんのこと嫌いになるわけないでしょ。少なくとも僕は、どんなことがあっても姉さんの味方だよ」
「トド松う……ごめんねこんなお姉ちゃんでごめんねええ、今度からはちゃんと見て見ぬふりするから」
「うん、そのことなんだけどさ。僕から一個話があるんだ」
「?何でしょう……?」
「……あのエロ本はね、全部おそ松兄さんのだから」
「は!?はあ!?はああ!?!?バッ、おまっ……何言ってんの!?」
「だから、僕らは全っ然関係ないから!悪いのは、全部あの長男だから」
「フッ……すまないなシスター、俺からも十分言っておこう」
「いやーあんだけ大量にあったらびっくりするよね」
「俺らは全然平気だから……」
「うん!僕らのは一冊もないからー!」

おそ松一人のものにしては隠し場所が分散しすぎのような……というか、明らかに一松の趣味っぽいのとか十四松が持ってそうな本と一緒に置かれてたやつとかあったんだけど……。

「てめーらまじふざけんなよ!!なーに自分だけ逃げようとしてんだ!」
「見苦しいぞおそ松、非を認めろ」
「ほんっと同じ兄弟として恥ずかしくなるよねー」
「たしかに」
「たしかにー」
「おそ松兄さん、今度はもっと見つかりにくい場所に隠してよねー?」
「ああそうかよ……お前らがその気ならこっちにも考えがあるよ」
「……?お、おそ松……?」
「確かに“この本は”俺のだよ。でもな……」

後ろに座っているおそ松の手が、雑誌に伸びる。その中の一冊を取って、私の膝の上で開いた。

「ここ!このページ!チョロ松が使ったあとすっげー開きやすくなってた!多分あいつこのページでめちゃくちゃ抜いてる!」
「えっ」
「次!これ!このページ、多分カラ松と十四松のお気に入り!次ここ!これ一松で、こっちがトド松!」
「えっえっ」
「オイコラクソ長男!!!なんっつーこと暴露してんだてめえ!!」
「へっ、俺だけ生け贄にしようとしたのはどこの誰だあ〜?てめーら全員道連れだァ!」
「ふざけんなあ!」
「殺せ!」
「ぶっ殺せ!」
「やんのかコラァ!」
「死ね!」
「てめーが死ね!!」

その後、六つ子達の血で血を洗う戦いは夜中まで続いた。結局私は不可抗力ということでほとんどお咎めはなかったけど、宝探しゲームは一生禁止となった。