11:密談

もうそろそろ布団に入ってごろごろしようかなと思っていたら、なまえ姉さんの部屋からこんな声が聞こえてきた。

「ちょ……何で電話……用件ならメールで……はあ……そうですか……。いえ……あの、……。申し訳ないのですが、しばらくは独り身でいいと思っておりますので。すみません、お応えできません。……一回だけって……あの……本当にそれで諦めていただけるんですか?……わかりました、日程調整してみます」
「え……?え?えええ!?に、兄さん達ーー!」

「い……一回だけって言ってたの……?トド松……?」
「う、うん……」
「それって……もしかして……」
「ねーさんと知らない奴がセッ●スするってこと!?」
「落ち着け十四松!まだそうと決まったわけじゃない!」
「内容的には間違いなく告白されてそうだよね……一回ってのが謎だけど」
「はあ?つーかどこの誰だよ。振られてんだから察しろよ。ワンチャン狙ってんじゃねぇぞクズが」
「ああ……最低のクソ野郎だな。どこのどいつなんだ一体」
「ちょっ……兄さん達落ち着いて」
「長男と次男の殺気がやばい」

ほんとなまえ姉さんのことになると上二人は周りが見えなくなるな……。

「……なまえって前に彼氏いたことあったよね」
「もしかして、結構モテるのでは……」
「もし断るたびにセッ●スしてるとしたら……アーーーー!!嫌だ!考えたくない!!」
「うおい勝手な想像すんな!なまえはそんな尻軽じゃねえよ!」
「そうだぞチョロ松!なまえがそんなガバマンな訳あるか!もしそうだとしたら女として最低だぞユルマンすぎるぞ!しかし俺達のシスターがそんなもののわけがない!花の蕾のように固く閉じているに決まっている!」
「いや状況によっちゃお前が一番ひでーこと言ってる!」
「でもさ……ほんとにまず何を一回するのかって確かめた方がよくない?」
「たしかに」
「そうだね……それじゃあトド松行ってきて」
「ええ!?何で僕!?」
「だって元々お前が電話立ち聞きしたからこんなことになってんでしょ。お前が責任もって聞いてくるべきじゃない?」
「いやいやいや何て聞けばいいの!?今度知らない男とセッ●スするの?って??聞けるわけないでしょそんなデリカシーのないこと!こういう時こそ長男であるおそ松兄さんが行ってよ!」
「はあ!?何で俺!?長男とか今関係ないだろ!」
「普段からデリカシーないんだからいつもみたいなかんじでいけるでしょ」
「いや無理無理無理だって!普段のとマジなのは全然別だから!カラ松行けよ」
「お、俺!?ホワイ!?何故だブラザー!」
「だってお前バカじゃん。バカだからなんかこう、ノリでいけんだろ」
「ノンノンノンおそまぁ〜つ、確かに俺は超かっこよくて優しくて頼れる松野家の次男だ」
「いやかっこいいなんて一言も言ってないけど」
「しかぁし!こんな俺にも不可能はある……そうだな、こういうのはー……十四松なんかいいんじゃないか?」
「ええ!?僕!?なんで!?」
「何かいつものテンションでいけそうだろ」
「無理だって!姉さんとそういう話したことないし!すぐふざけちゃうし!一松兄さん行ってよ!」
「いや何で俺!?俺が一番ないでしょ!」
「うん、そうだね。ごめん。」
「いやそこで納得されるとちょっと傷つくんだけど……チョロ松兄さん行ってきてよ」
「僕!?えっ何で!?」
「お得意の理詰めすればいいだろ」
「無理無理無理!姉の性事情とか重すぎて直接聞けるわけがない!トド松行ってきてってば!」
「ちょっとお!かえってきてるじゃん!おそ松兄さん行ってきてよ!」
「カラ松行けって」
「行くんだ十四松!」
「一松兄さん!」
「チョロ松!」
「「「「「「も〜!誰か行けよ〜!!」」」」」」
「あれ、なんか盛り上がってる??」
「ヒイッ姉さん!!」

襖から顔を出したのはまさに話題の人、なまえ姉さん。

「え、ごめんお邪魔だった?またあとにした方がいい?」
「いやいやいやお構い無く!」
「僕たちに何か用?」
「あ、うんえっとね、皆今週の土曜日ってあいてる?」

今週の土曜日??予想もしない内容に、思わず兄さんたちと顔を見合わせた。どうする?とりあえず答えていいんじゃない?そんな感じ。

「特になんもないけど」
「フッ……俺もフリーだぜ」
「僕も特にはないよ」
「俺も」
「僕も」
「僕も平気だよ、姉さん」
「よかった!そしたらちょっと悪いんだけど、昼間三十分ばかし付き合ってほしいんだ」
「全然問題ないけど……何するの?」
「実は……会社の人から告白されちゃってさ。断ってるんだけどなかなか分かってもらえないんだよね。今付き合ってる人がいるわけでもないのにって。私としては、皆がいればわりと十分だから、しばらくいらないやって思ってるんだけど。で、その話をしたら今度は六つ子に会わせてくれだって。どうも六つ子の存在自体、私がでっち上げた嘘だと思ってるみたいなのよ。だからお願い!一回だけその人に会ってもらえない??チビ太君のおでん一回分奢るから!」

両手を合わせて小首を傾げるくっそかわいい姉さんを前に、呆然とする僕達。一瞬の沈黙のあと、わっと歓声が上がった。

「まじ!?ゴチになりやーす!(っしゃあああセーーフ!!)」
「お安いご用だぜ、シスター(いよっしゃああああよかったああああ)」
「僕も、まあいいよ。つきまとわれて困ってるんでしょ?(っしゃああおらあああああ)
「俺も。皆が行くなら(あぶねえええよかったああああ)」
「僕もへーきだよー!(うおおおおおよかったああああ)」
「僕も問題ないよ。おめかししていくね!(っしゃああああ!しゃあっしゃあああああ)」
「皆、ありがとう!じゃあまた細かいことが決まったら言うねー」