03:お泊まり

「だめ!絶対だめ!」
「そ、そこを何とか……!」

夜。六つ子の部屋にて。寝巻きで布団を抱えながら僕たちの前に正座するのは、他でもない僕たちの唯一の姉さん。

「あのさー、一応俺達も男なんだよ?しかも六人もいんの。何かあっても責任とれないよー?」
「でも皆は男の人じゃなくて弟だよ!」
「俺はなまえの弟になった覚えないけどねー」
「いや弟だよ!そこは受け入れようよ!」
「姉の威厳ってやつがないんだよなーなまえには」
「おそ松こそ長男の威厳ないじゃない!」

ああ始まった。この二人はいつもこうだ。おそ松兄さん達がなまえ姉さんをかたくなに姉さんと呼ばないのは、勿論意識してるからなんだけど。なまえ姉さんはそんなこと知らないから、いつも地雷を踏み抜くんだよなあ。

「ちょ、ちょっと二人ともストップ!これじゃあ話進まないよ!」
「あのさあ、何も俺たちの部屋じゃなくてもよくない?」
「一松の言うとおりだよ、父さんと母さんの部屋に行けばいいじゃないか」
「流石に夫婦の寝室にお邪魔するのは気まずいでしょ……」
「あー」

思わず納得してしまった。

「だからって、僕らと同じ部屋で寝るなんて……」

なまえ姉さんとは昔から別々の部屋で寝ていた。時々なまえ姉さんがこっちの部屋に隠れてやってきたことはあるけど、それが許されたのも小学校低学年くらいまでだ。

「お願いだよ!今日だけだから……!今日を乗りきれば多分大丈夫だから……!」
「ノンノン、なまえ。日数の問題じゃないんだ」
「ったく、何で怖がりのくせにホラー映画なんて見るんだよ」
「ごめんなさいいいSNSで話題になってて予告面白そうだったから思わず見てしまったんですうう」

なまえ姉さんは超がつくほどの怖がりだ。なまえ姉さんが実家に帰ってきてからというもの、松野家ではホラー番組は一切流さなくなった。せっかくこっちが気を使っていたというのにこの姉さんは。

「なまえ姉さん子供みたい!」
「うっ、十四松それわりと傷つく」
「はぁ……しょうがない、お前らちょっと集合」

姉さんを背にして、僕ら六人だけで集まる。背中にものすごい視線が刺さるけど今は無視。

「お前ら、手出さないって約束できる?」
「何とか……」
「たぶん……」
「努力します……」
「おい!そこはっきりしろよ!」
「そういうおそ松兄さんはどうなの」
「全っ然自信ないまじで俺何しでかすかわかんない」
「オメーが一番危ねえじゃねぇか!」
「まって!僕たち六つ子だよ!」
「フッ……協力、だな」
「誰かが抜け駆けしたときには」
「全力で血祭りにあげる……」
「「「「「「よし!」」」」」」

なまえ姉さんは僕達と別の布団で寝ること。
寝るまでに各々一回ずつトイレに行くこと(抜くために)を条件に、なまえ姉さんの入室を許可した。……のは、いいんだけど……。

「じゃあ、消すね」
「おやすみなさーい」
「おやすみー」
「みんなおやすみ」
「……」

何でなまえ姉さん僕の隣にいんの!?!?!?そりゃ誰かの間には入れられないし十四松の隣も危なすぎるけど!!!あれか?僕には姉さんに手出す度胸なんてないってか?うるせぇくそがアアアその通りだよちくしょう!!!
もう、寝よう。瞼を閉じれば姉さんは見えなくなる。猫でも数えよう。猫が一匹……猫が二匹……猫が三匹……姉さんが四匹……、姉さんが四匹!?!?!?
肩の辺りに感じた感触から、思わず目を開ける。そちらに目線を向けると、姉さんがこっちを見ていた。あ、やばい。これやばい。

「……」
(え?なに?)

何かパクパクと口を動かしながら手を伸ばす姉さんに、何となく僕も手を伸ばす。するとその手が、繋がれ、て……え……?ええええええええええ??????ちょちょちょ、まっ、ええええ???今なまえ姉さんと手繋いでる?手繋いでるのこれ???何で?何これ?幸せすぎて死にそう。

(あ、り、が、と)

またパクパクと口を動かした姉さんの、言いたいことは今度は何となくわかった。けど。なまえ姉さん、そのまま僕の手を引き寄せて、え、まって、どこまでいくの?これ、やば、息あたる……!やばいやばいやばい姉さんの手柔らかい体温あったかい息あたるやばいこれ本当にだめ猫、猫数えよう、猫が一匹……猫が二匹……猫が三匹…………



「皆昨日はありがとうねー。おかげでよく寝れました!」
「ったく、もう来んなよー」

結局、僕はそのまま一睡もできずに朝を迎えた。願わくば、姉さんには金輪際ホラー映画を観ないでいただきたい。