07:お兄ちゃん

「はい、皆好きなの頼んでね」
「なまえ姉さんゴチになりやーす」
「あざーす」
「ありがとうございマッスル!」

某日、ファミレス。僕となまえ姉さん、一松兄さん、十四松兄さんの4人はボックス席に座っていた。勿論、なまえ姉さんの隣は僕がキープ。ふふ〜こういうとこは末弟の特権だよね〜。それぞれ思い思いにステーキやらハンバーグやらホットサンドやら頼んで、ドリンクバーも取って、一息ついた頃。いつまでたっても本題に入らない姉さんに釘を指した。

「で、今回はどんな話?」

姉さんがこうやって何人かの松を集めてご飯を奢る時は、大抵何かしら相談事があるって決まってんだよね。姉さんも、なーに肩震わせちゃってんの。わかるよ。兄弟だもん。長い付き合いでしょ。僕らで役に立てるかわかんないけどさ、早く吐いて楽になっちゃいなよ。

「ずうっと気になってたんだけどさ……」
「うん」
「おそ松とカラ松とチョロ松ってさ……」
「うん」
「っ……私のこと、結構本気で嫌いなのかな!?」
「「「は???」」」
「お待たせしました、ご注文の品をお持ちしました」

タイミングよく注文した料理がテーブルに運ばれてきた。ステーキやハンバーグのプレートがじゅうじゅうと鳴る音だけが聞こえる。そうしてちょっとしてから、僕と一松兄さんと十四松兄さんは同時にナイフとフォークを取り、料理にありついた。

「はーー、ほんっと姉さんって何でそうなのかなー」
「え?」
「ちょっとでも心配して損した」
「ええ?」
「お疲れっしたーあざましたー!」
「ちょ、ちょっと!こっちは真剣なんだから!」
「だから杞憂だって言ってんの!」

仕事の話かなーとかもしかして彼氏できたとかかなーって思った僕たちが馬鹿だったよ!上三人に嫌われてる!?はあ!?いやもうその逆だから!あいつらすっげぇなまえ姉さんのこと好きだから!好きすぎて「あわよくば」を狙ってる節すらあるから!いや何その納得いかないみたいな顔!?分かってないの姉さんだけだからね!?

「だって上三人はなんか変によそよそしい時あるし……」
(いやそれ意識してるだけ)
「私のこと頑なにお姉ちゃんって呼んでくれないし……」
(いやそれ姉として認めたくないだけ!一人の女性として認識したいだけ!)
「やっぱり私のこと邪魔だと思ってるんじゃないかなあ……」
「……はあ。姉さん、いい?まず前提として、僕達六つ子に、姉さんを嫌いな人いないから」

いや何そわそわしてんだネコ松!バレバレなんだよお前も!

「ほんとに?」
「ほんと!」
「一松も?」
「えっ……まあ、嫌いとかはないよ。兄弟だし」
「十四松も?」
「もっちろーん!」
「上三人もおんなじ!安心してよ。僕ら皆、姉さんのことが大好きだよ!」

兄さん二人の視線がささるけど知らなーい。だって事実だし。

「ありがとう、トド松。……でも、出来ればもっと、兄弟らしく仲良くなりたいなあと思って。私も私なりにいろいろ考えてみたんだけどね」
「うん」
「上三人のことを、お兄ちゃんって呼んでみるのはどうかな……!?」

…………は?

「どう思う!?姉の存在がだめなら妹として振る舞おうかなーって作戦!実際私の方がお姉ちゃんだけど、この際しょうがないかなあって」
(何その発想……どうしたらそんなふうになるわけ……?)
「あの、それってさ」
「ん?」
「俺達のこともその……お兄ちゃんって呼ぶの?」

いやどうでもいい!!何ちょっと呼ばれたそうにしてんだネコ松!!十四松兄さんも!!無言で頷かない!!こいつらほんっと自分の欲に忠実だな!!

「あっ……と、それは考えてなかった。皆とは今でも仲良くしてもらってるから、テコ入れする必要ないかなと思ったんだけど」
「テコ入れ!?テコ入れとして自分のキャラ変えようとしてんの姉さん!?」
「せっかくだから一回呼んでみよっか!えっと……一松お兄ちゃん」
「ぐはあっ」
「十四松お兄ちゃん」
「ぐぼぉっ」
「トド松お兄ちゃん」
「ぐふぅっ」
「あははー、やっぱちょっと違和感あるねー……って、わあ!?どうしたの皆!?何で吐血してるの!?」
(か……)
(か……)
(か……)
(((可愛すぎかよ……)))

当然、なまえ姉さんの「お兄ちゃん」呼びは、今後一切封印することとなった。