「アオキ、ちょっとこちらへ」
上司からの呼び出しはいつも唐突である。そして、おおよそ自分の好まないことばかりを口にする。上司とは、仕事とはそういうものだと割り切るしかない。
「一週間ほど休暇を与えます」
上司であるトップの部屋に呼び出されたかと思えば、予想と大幅に異なる答えを出された。きっと今の自分の頭上にはハテナマークが大量に飛んでいるであろう。そのありさまを見た上司は一言、奥方と共に旅行でもどうですか、と。嘘のような言葉に、とうとう自分が夢うつつ状態になってしまったのかと訝しむ。黒手袋をはめた手で、もう一方の手の甲を抓る。……痛い。真顔のトップは、一言だけ付け加えた。
「アオキ、現実ですよ」
「え〜、どうしますか? エンジュシティでスズの塔とか見るのもいいし、カントーでサントアンヌ号にも乗ってみたいなあ」
彼女が早速スマホロトムで何を見ているかと思えば、「ジョウト地方名所おすすめ10選!」の文字。帰宅後、休暇をもらえたという話をしたら、「じゃあ新婚旅行ですね!」ときらきらと目を輝かせながら自分の腕に抱きついてきた。以前はネッコアラの枕木代わりだったこの腕が、今では彼女の体温で温かい。ソファで横並びになって二人で他愛のない話をすることが、本当に幸せである。
「アオキさんと旅行、楽しみだなあ」
「自分もです。まさか長い休みをもらえるとは思ってもいなかったので」
相変わらず、自分に向けるまなざしが愛おしい。彼女の言う「楽しみ」は、日中だけでなく夜の話も含まれているのだろうことは自分しか知らない。……それを想像するのは難くない。何度も触れている彼女の唇にそっと触れると、柔らかい二つのひだが自分の指を喰んだ。ぷちゅ、とナマエさんの口からはしたない音がする。……これ以上は自滅を招くだけのような気がする……。
案の定、その日はソファで最後までしてしまい、翌日は自分の腰を労わりながら出社した。
そして、腰痛が改善された日が旅行初日であった。
結局、迷いに迷ってホウエン地方に決めた。「ホウエン地方に温泉があるとか。日頃の疲れを癒しに行きましょう!」と彼女が自分のことを考えてくれたのが心の底から嬉しかった。
予約したのはフエンタウンにある旅館だ。余裕のある貯金から少しだけ奮発し、彼女の喜ぶ姿を期待したのは内緒である。その外観を見て、彼女が慌て始めた。
「こんないいとこ、初めて……」
「……まだ中にも入っていませんが」
落ち着きのある白い暖簾をくぐり、一歩足を踏み入れると和モダンな空間が広がる。専用のデスクでチェックインを済ませて客室に案内されると、確かに自分もこのようなところに泊まるのは初めてで、テラスに備わる露天風呂に年甲斐もなく気持ちが高ぶる。部屋に二人きりになったところで、ナマエさんがうっとりとこちらを見つめてきた。
「すごい、和室もベッドもある、露天風呂もついてる……!」
「……ナマエさんと一緒に来たくて、調べました」
「アオキさん、ありがとう」
絡められた左腕に意識が向く。露天風呂は掛け流しなので、家のようなお湯はりの時間が省ける。正直なところ、風呂でもナマエさんを抱きたいと思っている。客室は離れのようになっているし、多少うるさくしても隣部屋には何の支障もないはずだ。
「早速お風呂入りませんか」
「い、一緒に入っていいんですか?」
夕飯までには時間がある。彼女をチラリと見れば脱衣所でもじもじしながらちんたらと下着を脱いでいる。なぜだかそれに官能がうずき、急かすようにショーツを下ろした。目をぱちくりさせたナマエさんはそこを隠すように手で覆う。
「……今さら恥ずかしい、と?」
「あっ! えーっと、アオキさんのことを焦らしてたんですよ」
嘘をつくのが下手である。焦らすどころか、期待でいっぱいのくせに。
湯船に浸かると、温度はちょうどいい。後ろから彼女を抱くように引き寄せれば、弾力のある肌がこちらに吸い付く。おいしそうなうなじに口づけを落とせば、控えめな甘い声が自分の耳に届く。振り向いたミョウジさんの唇に自分のそれを合わせた。ゆっくりと舌を絡めていると、彼女から荒くなった呼吸が聞こえる。
両手をそっとナマエさんの胸に添える。指の間からあふれるふっくらとしたそれと、手のひらにあたる頂の感触のギャップがより情欲をかき立てる。何度か揉んでやれば、また彼女から甘い声が聞こえた。それをいいことに、指先で乳首をコリコリと遊んでやる。示指で繰り返し撫でてみたり、二本で捏ねてみたりしているうちに、先ほどよりもぷっくりと熟れてきたのがわかる。
「んっ、ぁ、きもちいい、アオキさん……っ」
……どれだけ自分を翻弄したら気が済むんだ、この人は。自分の良識がめちゃくちゃに壊されるのではないかと思うほど、ナマエさんが性的である。決して性に奔放そうには見えないくせに、自分の前ではすべてをさらけ出す。毎日よこしまな気持ちで彼女を見ている自分が、駄目なことをしているかのように思われる。
切なく喘ぐ彼女をもっと喘がせたいと、敏感になっている先端を繰り返し擦り、摘む。摘んだあとはできるだけ優しく捏ねて、扱く。
「ぁ、やぁ、んっ、アオキさ……わたし、もう……」
「……煽るのが上手ですね、ナマエさんは」
普段は衣服で隠された彼女の白い太ももを手のひらで覆うように撫で、ゆっくりと足を広げるように促しては、秘された場所を開放させる。指先でそこを上下に撫ぜると風呂の湯とは異なる粘度のあるものが溢れていたので、おもむろにナカへ入れ込んだ。彼女の気持ちいい部分を探すべく、何度か指先を折り曲げたり出し入れを繰り返していると、ナマエさんの嬌声が一際高くなったところを見つけた。
「っ、ぁあ、ん、はぁ、アオ、キさ……だめ、だめっお湯、入っちゃう……!」
「……じゃあやめますね」
ダメと言われたため言葉どおり奥に沈めた指をするりと抜くも、名残惜しそうにナマエさんの温かいナカが自分の指先をきゅっと締めつける。
「んっ、ゃ、やめないで……!」
恥ずかしそうにこちらを見る上目遣いにやられ、依然とぎゅうぎゅう締めつけられる自分の中指を奥へ押しやった。
「では遠慮なく」
「っあ! ぁあ、ゃ、アオキさんっ」
湯の中だからと油断していたが、聞こえないはずのいやらしい水音が耳に入るようだ。普段ならそこを押しあげるだけでぐぽぐぽと音がするのに、それが無いだけで気落ちする。寂しい。だが、その分ナマエさんの声がよく聞こえて、これはこれでいい……。
何度も指先を揺すぶれば、粘着質な彼女のそれがあふれてきた。ただひたすらに自分の欲をおさめたいが為、彼女のナカを掻き乱し、同時に近くの尖端を撫で、絶頂へと急き立てる。空いている手で胸の頂を捏ねて摘んだら、ナマエさんの息が上がってきた。……そろそろか。指をあっさりとナカから抜き、ミョウジさんの前に見せた。彼女の愛液が自分の指先で絡んでいるところを。
「……ナマエさん、こんなになってましたよ」
「ひぅ……も、もうおわり、ですか……?」
「あとでゆっくりしましょう」
「は、はい……!」
興奮で蕩けきったナマエさんが湯あたりするのではと心配になり、これ以上の行為をセーブした。……危なかった。自分も最後までやりたいのはやまやまである。聳り立つ自身を何とかおさめて、風呂から上がった。
……四天王である同僚の号泣する姿を想像しておさめたというのは、彼女にも内密にしておく。