ひまわり畑で

 五ヘクタールを超える広大な敷地を埋め尽くす、黄色の花の群れ。太陽に向かって伸びた花茎は長く、太い。
 私の恋人であるなまえは、女性としては平均的な身長。グリーンのコットンワンピースを着ている彼女は、背の高い花の中で埋もれてしまう。
 としのりさん、と私を見上げるなまえの笑顔は、まるでひまわりの花のようで。
 不意に、このたくさんのひまわりの中で彼女を見失ってしまいそうな不安にかられ、手を伸ばした。

「どうしたの?」

 いきなり肩を抱かれて驚いたのだろう。なまえの目が丸くなる。
 なんとなくこうしたかったからさ、と、微笑みながら答えると、なまえも私に笑みを返した。

「今日はありがとう。ここに連れてきてくれて」
「なんの。今日は君の誕生日だろ? 君の願いならなんでも叶えるさ」
「そんなふうに言われると、お姫様にでもなった気分」
「そうさ。今日に限らず、君は私のお姫様だからね」
「また、俊典さんはさらっとそういうことを言う」

 照れたように呟いたなまえの長い髪に、そっと触れた。
 本日、君はひとつ年を取る。今日は親子ほども離れた私たちの年齢が、ほんの少しだけ近づく日。
 それを嬉しく思いながら、彼女の髪を梳いた。私の指の間をさらさらと流れ落ちる、絹糸のようななまえの髪。

「俊典さんって」
「なんだい?」

 まぶしそうに私を見上げる、愛しい君。

「まるでひまわりの精みたい。きんいろの髪がきらきら輝いて、とてもきれい」
「ありがとう。でもね」

 君は知らない。どれだけ私が君を眩しく、そして愛しく想っているかを。

「君こそ、ひまわりの花のようだよ」

 地の果てまでも続いていそうなひまわりの群れと、抜けるように青い空、白い雲。
この美しい風景を、来年も君と一緒に見たい。
 心密かに私は願う。

 君の新しい一年が、素晴らしいものになりますように。そしてどうか、これから先も、我々がずっと一緒にいられますようにと。

2019.8.21

くろ様のお誕生日に

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