国立公園のひまわり畑で、子どものようにはしゃぐ俊典は、誰もがよく知るヒーローだ。オールマイト、常に笑顔で敵と戦う、誰にも負けない平和の象徴。
だがその彼の真の姿が柳のように痩せ細り、ちょっとした刺激で血を吐くほど衰えていると知る者は、とても少ない。
「昨年見たひまわりはわたしくらいだったものね」
「そうだね。でもホラ、見て! 今年のは私よりもこんなに大きいよ!」
俊典が背伸びしながら手を伸ばした。二メートルを大きく超える彼よりも尚大きい、巨大なひまわりの花に。
「わざわざ足を伸ばした甲斐があったねぇ」
この公園にはいくつもの種類のひまわりが植えられている。女性の平均身長くらいのシロタエヒマワリや、草丈が二メートル前後まで伸びるロシア。小さめのビンセントやサンリッチ。そして今、わたしたちの目の前で巨大な花を咲かせているタイタン。
花の大きさは四十センチほどもあるだろうか。俊典と比べても遥かに高い草丈は、おそらく三メートルを超えている。
昨年、シロタエヒマワリの中で「君が消えてしまいそうで怖いよ」言ったのは俊典だった。けれど今は、三メートルを大きく超えるひまわり畑の中にいると、俊典が消えてしまいそうで怖かった。彼が今、グリーン系のボタニカル柄シャツを着ているからなおさらだ。
強く優しく逞しく、そして儚い、わたしのいとしいひと。
お願いだから、いなくなったりしないで。
不安に駆られ伸ばそうとしたわたしの手を大きな手が掴んで、そのままぐいと抱き寄せられた。
この人は、突然こういうことをしてくるから本当にずるい。
「どうしたの?」
動揺を隠してそうたずねると、涼しい顔で俊典が応える。
「君が消えてしまいそうで怖かったのさ」
それはこっちのセリフだと言いたかったが、それは口には出さなかった。おそらく彼には、わたしの考えていることはすべてお見通しだろうから。
いなくなったりしないでね、と心のなかで呟いて、俊典の青い瞳を見上げる。彼はなにもいらえずに、困ったように青い目を少し細めて、微笑した。
わかっていて明確な答えをくれないところが俊典らしい、とひそかに思った。これがこのひとのずるさでもあり、そして優しさでもあるのだと。
おそらくこのひとはこの先何があっても、オールマイトとしての生き様を変えない。変えられない。そしてそれも含めて、わたしは俊典を愛したのだ。
だから。
「じゃあ、しっかり捕まえていてね」
「……オーケイ」
わたしを抱く腕に力が込められた。夏のひまわり畑はひどく暑い。だけど……だけど今は、このぬくもりに包まれていたい。
目を閉じながら深くそして強く、わたしはそう思ったのだった。
2021.7.10
サイト初出 2021.9.5
2021夏のBOOSTお礼文
- 56 -