柊木犀の花詞

 雑貨屋のアルバイトの帰りに、夕飯の食材と金木犀の花を買った。散りやすいこの花が、まだ暑いこの時期に店舗に並ぶことは珍しい。
 未だ暑い日々が続いているが、微かに香る金木犀の香りは、きたるべく秋の訪れを梨央に感じさせた。ただオレンジ色の可憐なこの花は、とても儚い。咲いたと思ったら、すぐに散ってしまう。枝を切るそばから花がはらはらと落ちてしまうので、いけばなには向かない。けれど梨央は、この花の芳香が好きだった。
 白ワインにこの花を付け込んだ酒を、桂花陳酒という。不意にそれが飲みたくなった。今度、彼と出かけてみようか。桂花陳酒が置いてある、美味しい中華料理のお店に。

「……問題は、いつ行けるかよね……」

 ごくごく小さな声で、ひとりごちた。
 オールマイトからのプロポーズは受けたが、入籍はまだだ。吉日を選んで共に役所にと思っているのだが、オールマイトが忙しく、なかなか時間がとれない。学校は夏休み中だけれど、教師はいろいろとやることがあるようすだった。
 学校行事の最中に生徒の一人が拉致されたのだから、当然と言えば当然だろう。
 今日も遅くなるのだろうか、それともわたしが先だろうか。梨央はそう思いながら、帰路を急いだ。

***

「ただいま」

 玄関に大きな革靴を発見し、弾む息を抑えながら、そう声をかけた。
 ソファでくつろいでいた長身痩躯が手にしていた新聞を置いて、ゆっくりと梨央の方を向く。

「ちょうどよかった。梨央、話があるんだ」

 おかえりという言葉もなく、いきなりそう告げられた。いったい、どうしたというのだろう。

「大事なお話?」
「うん。とても」

 肉が薄く彫りの深い面は、少し緊張しているように見える。真剣な表情を目の当たりにして、梨央はひるんだ。オールマイトは梨央に対して、いつも鷹揚だ。彼がこんな様子を見せるのは、とても珍しいことだった。

「……少しだけ待ってもらえる?」

 慌てて食材を冷蔵庫に、花を水揚げ用のバケツの中に入れて、梨央はオールマイトの隣に腰を下ろした。

「ごめんなさい。お待たせ」

 うん、とオールマイトはうなずいて、そして静かに口を開いた。

「入籍する前に、ご両親に挨拶に行かないか?」
「……それは……必要ないんじゃないかしら」
「うーん。でもね、できればそこはきちんとしておきたいんだ。お互い成人しているけれど、私と君とでは年齢もずいぶんと離れている。ご両親はそこも心配だろう。将来私になにかあっても生活の心配はないことをきちんと話して、その上で入籍をすませたいんだ。君がどうしても嫌だというのなら、話は別だけど」

 答えに詰まった。両親のことだ。おそらく反対はしないだろう。それは、相手がオールマイトであるからだ。社会的にも経済的にも、不足どころか充分すぎておつりがくる。
 梨央が実家に行くのを躊躇するのには、もっと別の理由があった。

「それにね、君、本当に花が好きだろう? 花の仕事、したいだろ?」

 梨央は思わず下を向く。同時に唇から洩れたのは、したいわ、という小さな響き。それをオールマイトが聞き漏らすはずもなく。

「それなら話が早いね。まずは私と結婚することを許してもらって、その上で、君が花の仕事に復帰できるよう、相談をする。どうだい?」
「そんなの無理よ」

 花の仕事に復帰できるとは思えなかった。なにより、梨央の復帰を決めることができるのは、両親ではない。

「無理じゃないさ。君があの家にいられなくなったのは、お家元の勧める縁談を断ったからだろ? だったら、君が連れてきた相手……つまり私が、お家元のお眼鏡にかなえばいいってことだ」
「……確かにあなただったらお家元も納得されるとは思うけれど、そういうことじゃないのよ。問題はお家元に逆らったことなの。許されるはずはないのよ」
「そうかな」
「え?」

 バケツに投げ活けされた金木犀をちらりと眺めて、オールマイトが続ける。

「だって、君の名前、名簿の中にあったじゃないか」
「……」
「ということは、破門はされてないってことだろ?」
「そうだけど……」
「だったらきちんと話をしなくてはいけない。ほんのわずかでも希望が残るうちはね。もちろん、君が若月流以外のところで花をやりたいというのなら、また別の方法を考えるつもりだよ」
「……それは……」

 梨央はわかっていた。どれほど実家の考え方やしきたりに嫌気が差そうとも、自分のやりたい花の形は、やっぱり若月なのだと。

「じゃあ二人で、君のご実家に話をしにいこう」

 矢車菊色の瞳を少年のように輝かせて、オールマイトが笑った。



 その夜、いつものようにベッドサイドの明かりをつけたまま、オールマイトとつながった。行為はいつも、ある程度の明かりがついた部屋でおこなう。それは最初の夜から今日まで、変わることはない。

 明るいところで裸体をさらす、恥ずかしさ。
 慣れてくれば平気になるかと思っていたが、まったくそんなことはない。反対に次何をされるのかと予想するたび羞恥がつのり、それが情熱に火をつけ、体の奥を熱くする。
 時には早朝の月のように、時には夜の太陽のように。普段すべてを優しく包み込んでくれるオールマイトは、ベッドの上ではまた違う顔を見せた。それは優しいばかりではない、激しい雄としての顔。

 無垢であった頃には思いもしなかった自分の中の女の部分を、暴かれ煽られ流されて、翻弄される、閨での長くて短いこの時間。
 オールマイトから与えられる快楽に身を任せながら、このままずっとこのひととの暮らしが続けばいいと、そう思った。

***

「ねえ、おかしくない?」

 ハイヤーから降りるなり、梨央はたずねた。

「大丈夫。今日もきれいだ」

 応えた主は、身体に合ったサイズの、紺の三つ揃いを着ている。白いシャツに、グレーのネクタイ。地味めだけれど、堅実な装い。
 隣に立つ梨央は和装だ。桜色の江戸小紋に格が高めの名古屋帯を締め、白い台の草履を合わせた。

「ずいぶん緊張しているね。でも大丈夫。私がいるよ」
「ありがとう……」

 先週の日曜、実家に電話をした時のことを、梨央は思い出していた。
 会ってほしい人がいる。そのひと――八木俊典――がオールマイトであるということを伝えると、一瞬、母は沈黙し、次に「待っているわ」と答えた。とても静かに。
 次いで電話口に出た父から返ってきたのも、「わかった」という一言だけ。
 予想していた以上にあっさりと承認されてしまったことが、逆に怖かった。

 いや、と梨央は思う。
 怖いのは両親ではない。梨央が怖いのは、その上の、父よりもずっと気難しい老人だった。
 今日は宗家にも挨拶に行くことになる。花の話をするならば、当然そうなるし、なによりもまず、オールマイトがそのつもりでいるのだから、梨央にはもうどうすることもできない。オールマイトは優しいけれど、こうと決めたら何があっても揺るがない。梨央にも似た部分はあるが、オールマイトのそれは、梨央のそれとは比べものにならないくらい、強固なものだった。



「しかし、想像していたより、ずっと立派なお屋敷だね」

 実家の門構えを見たオールマイトが、小さく口笛を吹く。
 渋谷から徒歩圏内の場所にあるとは思えないほど、このあたりは閑静だ。昔ながらの大きなお屋敷がずらりと並ぶ、高級住宅地。その中で、若月宗家ほどではないにしろ、梨央の実家もそれなりに広い土地を所有している。

「……ごめんなさい」
「君が経済的に恵まれた環境で育ったことは、別に謝ることじゃないだろ」

 梨央の背中を軽く叩いて、オールマイトが呼び鈴を押した。
 インターフォンから返ってきたのは若い女性の声だった。梨央の知らない声だ。新しい家政婦さんだろうか。
 この一年で変わってしまった事もたくさんあるのだろうと、静かに思った。

 両親への挨拶は滞りなく済んだ。さすがにオールマイトはこういうこともそつなくこなす。彼は名刺を出し、現在は雄英で教師をしていることを伝え、挨拶が遅れたことをまず詫びた。
 そのうえでオールマイトの口から出たのは、テレビドラマやコマーシャルなどでよく聞く「お嬢さんを私に下さい」というものだった。
 それに対して両親は、少し気取った面持ちで「不束な娘ではございますが」といらえた。つまり、了承を得られたということだ。

 思っていた通り、このひとたちはそれなりの地位にいる相手であれば、歓迎するのだ。
 両親は愛情のない人たちではなかったが、事件以来、両親は梨央について一線を引いているような感じがあった。気にしているのは、若月の家の体面だけ。
 親類からも腫物をさわるような扱いをうけながら、誘拐された娘よと常にさげすまれてきた。何もなかったのだと言えば言うほど、それは嘘のように響き、ますます梨央は傷ついていった。そういう時、両親からかばってもらえたことなど、一度もなかった。

「失礼いたします」

 ふいに襖の向こうから若い女性の声が響いた。先ほどインターフォンに出たのと同じ声だ。
 父が返答をすると、音もなく襖が開けられた。若い家政婦はよくしつけられているようだ。このような堅苦しい家での勤めは、きっと楽ではないだろうに。

「お家元がおいでになりました」
「こちらにお通しするように」

 恐れていた瞬間が来た、と思った。
 全てに応じて厳しい父をより厳格にしたような宗家の当主、若月流の家元。なによりも、梨央は宗主の目が怖かった。すべてを見透かしているような、厳しい瞳が。

「お家元が、こちらに?」

 母が目をそらしながら、小さくうなずく。
 どうしてわざわざ、と心の中でつぶやいた。本来であれば、梨央があちらに出向くのが筋であろうに。それなのに、なぜ。
 不安でいっぱいになりながらも、ぐるぐると思考を走らせる。けれど、答えが見つかるはずもなく。

 そのときオールマイトが、梨央の背をぽんぽんと叩いた。あたたかくて安心できる、大きな手。
 両親に気取られないよう、ゆっくり腹式呼吸をすること三回。四回目に息を吸い込んだその時、すっと襖がひらかれて、家元が姿を現した。

 江戸鼠の、一つ紋つきのお召し羽織と同色の長着を召した老人は、最後に会った時と変わりないようすだった。かなりの高齢であるにもかかわらず、立ち姿は潔く、そして美しい。小柄であることをあまり感じさせないのは、その内面に、一本芯が通っているためだろうか。
 オールマイトがまず宗主に挨拶をし、頭を下げた。宗家も礼にかなった挨拶を返した。
 その上で、老人は静かに、だが有無を言わさぬ声で告げた。

「では皆は下がりなさい。私はオールマイト氏と二人で話がしたい」

 梨央は狼狽えた。

「では、わたしもここで、共にお話を伺います」
「下がりなさい。私はこの方と二人で話がしたいのだ」
「でも!」
「梨央」

 焦る梨央に、オールマイトが微笑んだ。

「大丈夫だよ。私がお家元とお話をしている間、君はご両親とゆっくりしているといい」
「でも」
 矢車菊色をした瞳を笑みの形に細めて、彼はもう一度、大丈夫、と言った。平和の象徴の「大丈夫」を、こんなに不安な気持ちで耳にするのは初めてのことだ。それでも今の自分の立場では、言われたことに従うことしかできない。
 困惑しながら客間を後にした梨央のうしろで、襖がそっと閉じられた。



 老人は、オールマイトの正面に座った。それから何分経っただろうか。小柄な老人は黙したままだ。
 オールマイトは、こういった沈黙や気まずい雰囲気は苦手だった。なにか話の糸口をと思いつつ、窓の外に救いを求める。そこに広がるのは、一般家庭のものとは思えないほど、美しく整えられた庭。
 その中で、小さな白いつぼみをたくさんつけた樹木がオールマイトの目を引いた。五、六メートルほどもある、庭樹としてはかなり立派な樹だ。
 先日梨央がいけていた金木犀に、よく似ている。名はなんといったか。花が橙色のものが金木犀、白いものが銀木犀……梨央はそう言っていなかっただろうか。

「こちらの木々はみごとですね。特にあの金木犀とよく似た、ぎ……」
「柊木犀ですな」

 銀木犀ではなかったかと冷や汗をかくオールマイトの前で、家元はいきなり両手をついた。

「その節は、当家の梨央を助けてくださり、ありがとうございました」
「は?」

 オールマイトも、この展開は予想していなかった。
 いくらナンバーワン・ヒーローであっても、籍も入れずに若い娘と暮らすなどけじめがないと、叱責される覚悟でいたのに。

「あなたにお会いするのはこれで二度目ですな。最初にお会いしたのは、十年ほども昔のことになりますが」

 オールマイトは記憶を総動員し、やがて思い出した。
 事件のすぐ後のことだ。被害者の家族たちがまとまってオールマイトの事務所に礼に来たことがあった。よくあることなのですっかり失念していたが、思い起こせば確かにあの時、この老人はあの中にいた。

「姪を救けてくださったことに対して、もう一度きちんと礼を言いたかったのです」
「いえ、それが私の仕事ですから」
「それだけでなく、あなたのような方に選んでもらって、あの子は幸せでしょう。ご存知のとおり、あの子はひどい目にあいましたから」
「梨央に選んでもらえて、幸せなのは私の方です」

 家元は一瞬はっとした顔をして、やがて小さなため息をついた。

「なるほど。あの子は、配偶者を選ぶ目だけは確かだったようだ」
「他にもたくさん確かな部分はありますよ。私がどれだけ、彼女に支えられていることか」
「……本人のせいではないのだろうが、あの子はなぜか悪い男を惹きつける。だからあの子には厳しくしましたし、弟たち――あの子の両親にも、そうするよう釘を刺してきました。少しの隙すら見せぬように苦言を続けることで、もう二度と、あの子がつらい思いをすることがないように」
「けれど、あなた方のそうした姿勢が、梨央を深く傷つけてきたと思います」

 オールマイトはきっぱりとそう告げた。ずっと思っていたことだ。それに対して返ってきたのは、諦めたような静かな笑みだ。

 ああ、わかっていたのか。このひとは。

 善意のつもりの押し付けは害悪でしかない。この場合のように、デリケートな問題であればなおさらに。
 この間違った善意のおかげで、梨央はどれだけ傷ついてきたことだろう。
 用心深さゆえに梨央を傷つけ続けたこの老人を、責めるのはたやすい。けれど事がそう簡単な話でもないことも、オールマイトにはわかっていた。

「あの子には私が選んだ男の庇護の元で、ゆったりと暮らさせたかった。我々は、それが本人の幸せだと思っていました。けれどそれは、前時代的な考えであったようです。実際にあれは自分の力で、自分のよさを認めてくれる相手を見つけた。あなたのような」
「何度でも言いますが、救けられているのは私の方ですよ」

 オールマイトは、まっすぐに家元を見つめた。マッスルフォームになれば、いや、今の身体であっても、片手でひねりつぶせそうな小柄な老人だ。けれど背筋をぴんと伸ばしているその姿は、なぜか大樹のような安定感があった。
 頭を下げて、オールマイトが続ける。

「これは私からのお願いです。梨央に花の仕事をすることを許してやってはもらえないでしょうか」
「あの子の花に関する才能は、一族の中でも一二を争うほど秀でております。あとは本人次第でしょう。この件については、貴方からではなく、本人の口から語らせるのが筋です」

 確かにそうだ。だがおそらく、この老人は許可をくれるに違いない、そんな確信めいたものも同時に感じた。このひとは厳格で気難しいが、きちんと筋を通しさえすれば、話のできない相手ではない。

「ところでオールマイトさん。あなたは柊木犀の花言葉を知っているだろうか?」
「いえ、不勉強なもので……」
「そうですか」

 老人は庭を見やって、そして静かに笑った。問われたオールマイトも、庭の樹に視線を移す。金木犀よりずっと地味で、銀木犀よりもとっつきにくい、この樹の花言葉とはなんだろう。

「柊木犀は金木犀や銀木犀によく似ていますが、葉の形が違います。葉が柊のようにとがっていることから、魔除けにも防犯にもなると言われていますな」

 小柄な老人は真正面からオールマイトの目を見すえてから、軽く頭を下げた。

「オールマイト……いや、八木さん、梨央のことを、どうぞよろしくお願いします」
「この命ある限り、私は梨央のことを全力で守ります」

 庭園の柊木犀の樹が、白い蕾が、室内で対峙する大小二人の男を見おろしていた。

***

「なんだか拍子抜けしちゃった……」

 夕暮れの街を歩きながら、梨央がぽつりとつぶやいた。

「どうしてだい?」
「もう少し、違うリアクションを想像してたから」
「おいおい、まさか我々の結婚が反対されればいいとか思っていたんじゃないだろうね」

 違いますよ、と、笑いながら梨央がオールマイトの腕を叩く。

「でもよかったじゃないか。花の仕事ができることになって」

 あのあと、梨央は家元に頼み込んだ。また花の仕事をさせてもらえないかと。
 厳格そうな老人は無言でうなずいただけだったが、その眼が柔らかく笑んでいたのを、オールマイトは見逃さなかった。

「で、どんな仕事ができそうなんだい?」
「さしあたっては、来年開校するカルチャースクールの講師をさせてもらえることになるみたい……ほら、駅前のショッピングモールの中にあるでしょう?」
「ああ、あそこか。雄英からも近いし、ちょうどいいな」
「ええ、本当に」

 心底安心したように、梨央が笑う。
 その時、ふわりと甘い香りがした。いつも梨央がつけている香水とは違う、甘いけれどもお香のような、落ち着いた香りだった。

「そうだ、梨央。君は柊木犀の花言葉を知っているかい?」
「え? なぜ?」
「君の家の庭に、柊木犀が植えられていたからさ」
「よく柊木犀だってわかったわね。柊木犀の花言葉は、『用心深い』と『保護』よ」
「……そうか……」

 教えられた花言葉をかみしめるように、あの老人はまるで柊木犀そのものだとオールマイトは思った。
 きっとあの老人は、彼なりの思いやりと用心深さを持って梨央を保護してきたのだろう。方向性の正誤はまた別として。
 触れると痛い鋸のような葉を持つ、あの柊木犀の樹のように。

「柊木犀もね、甘い香りがするのよ。ほんのりと」
「へえ。今度嗅いでみたいな」
「金木犀ほど強い香りではないんだけどね」
「ああ、じゃあさ、今日は美味しい中華でも食べて帰ろうか。柊木犀ならぬ金木犀のお酒でも傾けながら」
「本当? 嬉しい。実はね、前から桂花陳酒が飲みたいなぁって思っていたの。だから今日も、金木犀のにおい袋を帯の中に入れてきたのよ」

 嬉しそうに笑みながら、梨央がオールマイトにしがみつく。自分よりはるかに小さい愛しい女を見おろしながら、オールマイトはふと思う。
 これから梨央と迎えるであろう生活が、金木犀の香りのように甘いものになるように。
 たくさん辛い思いをしてきたであろう梨央が、少しでも安らかに過ごせるように。
 オールマイトはふっと小さく笑んでから、そっと梨央を抱き寄せた。

2019.2.24

夢本発行にあたり「柊木犀の咲く庭」を改訂しました

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月とうさぎ