ハッピーバースデー

 テンションの高い、だが聞き慣れた声が、もうすぐ日付もかわろうという深夜の室内を満たしている。
 これは彼のラジオ番組、プレゼント・マイクのぷちゃへんざレディオ。

 常であれば、毎週金曜の深夜1時から早朝5時までに放送される番組だ。だが本日は、ラジオ局開局記念の日。そこで三十六時間ラジオという特番が組まれ、聴取率の高い彼の番組は夜二十時から翌日一時という、普段とは違う放送時間を割り振られたのだった。

「わりぃ、どうしてもはずせなくてサ。ほんとだったら一緒に過ごして、日付がかわった瞬間に祝ってやりたかったんだけど」

 この話をわたしにしたとき、ひざしは申し訳なさそうに頭をかいた。この特番がわたしの誕生日にかかっていたからだ。

「いいのよ。それに、普段とは違う層にあなたの番組が届くのは、いいことじゃない」
「ほんと悪いな。かわりに夜はいいレストランを予約して、盛大に祝ってやるからヨ」

 ありがとうとこたえたわたしに、ひさじは優しいキスをしてくれたんだっけ。
 ラジオの向こうで、ひざしはハガキを読み上げ、時にリクエストの曲を流し、時にギャグを飛ばし、時に悩む声に優しく応対する。
 陽気でからりと明るい、ひざしの語りかけ。

 けれど、この明るく陽気な声が、ひくくかすれる瞬間がある。それはひどくやさしい、山田ひざしという男が奏でるひそやかなしらべ。
 ベッドの上で耳孔に流し込まれるあの甘やかな響きを体感しているのは、今現在はわたしだけ。

「では次の曲」

 と、そこまで告げて、ひざしはいったん言葉を切った。
 先ほどのテンション高めな語りとは、少し異なる落ち着いた声。いつになく控えめな口調で、彼は続ける。

「次の曲は、明日お誕生日を迎えるあなたへ……レイニー・クラビットでハッピーバースデー」

 そう彼が呟いた瞬間、日付が変わった。同時に流れてきたのは、ムーディーなサックスの音。君が生まれた日を祝福するよと繰り返し歌う、幸福なバースディソングだ。

「ありがとう……」

 誰もいない午前0時の部屋で、思わず微笑む。
 わたしが生まれたことを一番早く祝ってくれた、ひざしのやさしさを噛みしめながら。

2022.4.29
サイト初出:2022.5.13
月とうさぎ