まるくてあまくて、そしてやさしい

 ネオン煌めく繁華街に、身を切るような冷たい風が吹きすさぶ。年があけてすぐに全国を襲った大寒波は、この大阪の街にも例外なく訪れていた。
 今日、太志郎さんは非番だ。非番だけれど、家にはいない。本日は関西ヒーローの会合があり、そこで食事とお酒が振る舞われるときいている。
 いうなれば、ヒーローたちの新年会のようなものだ。

「外は寒いだろうな」

 小さくため息をつき立ち上がる。と、その時、玄関チャイムが鳴った。

「ただいま」

 扉をあけた先に立っていたのは、わたしの大好きな丸くて大きなヒーローだ。
 ふっくらとした頬が、ほんの少しだけ上気している。が、そう酔ってはいないようすだった。

「おかえりなさい。寒かったでしょう」
「おん。雪降ってきたで。粉雪やから積もらんとは思うけど」

 という応えと同時に、コンビニの袋が差し出された。なんだろう、と思いつつ中身を確かめる。
 入っていたのは、冷たいバニラアイスを求肥で包んだ冷菓だった。

「こない寒い日に、暖かい部屋で冷たいアイスを食うんもオツやろと思てな」
「ありがとう、お風呂あがりに食べようか」
「せやな」

 わたしの頭をくしゃりと撫でて、太志郎さんがお風呂へと向かった。
 その手はいつもと違い少しひんやりとしていたが、やっぱりやさしい大きな手だった。

***

「お、ぷにぷにやな」

 おだいふくアイスをつつきながら、太志郎さんが満足そうに笑う。
 このアイスは冷凍庫から出してすぐより、少し室温に置き求肥がやわらかくなったところをいただくほうが美味しい――とわたしは思っている――ので、彼がお風呂から出たタイミングで庫内から出しておいたのだ。

「太志郎さんのほっぺみたいね」

 と、太志郎さんの膝の上でわたしがささやく。

「俺の顔はこない伸びひんやろ」

 と、わたしを膝にのせたまま、太志郎さんがわらう。

「な、食べさせっこしよ」

 唐突に、彼が甘えた声を出した。
 うん、とうなずいて、わたしは太志郎さんの口元に、彼とよく似たフォルムのアイスをはこぶ。
 太志郎さんは大きなおくちをあけて、白いかたまりをばくりと食べた。おだいふくの形のアイスはそんなに小さくないのに、ひとくちで食べてしまうのだから、まいってしまう。

「ほい。あーん」

 今度はわたしが食べさせてもらう番。
 でもわたしの口は彼ほど大きくはないから、ひとくちでは食べられない。とろとろになったアイスをこぼさないよう気をつけながら、みょーんと伸びた求肥をかみ切る。

「アイスついたで」

 わたしの口元についたバニラを太くて長い指がすくい取り、ぺろりと舐めた。

「おぎょうぎ悪い」
「お互いさまやろ」

 眉をあげた彼と顔を見合わせ、笑い合った。
 外は粉雪。でもわたしたちは、暖かい部屋の中で冷たいアイスを食べる。大好きなひとと。それはほんとうに、ちいさなしあわせ。

「ほな、もういっちょ」

 残りのアイスを口元に運んでくれる彼に微笑みを返して、口を開いた。せいいっぱい、大きく。
 はむ、とおだいふくのアイスを口に入れると、ぷにぷにもっちりした求肥とバニラアイスの濃厚な味が、おくちのなかで広がった。甘くてやさしいハーモニー。

 ああ神さま、と心の中でわたしはつぶやく。
 このちいさくもやさしく甘いしあわせな時間が、このままずうっと続きますようにと。

2022.冬のBOOSTお礼文
サイト初出:2022.4.26
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