一日遅れの
プレゼント

 目が覚めた時、すでに太陽は天の高い位置に座していた。

「ほんまかいな!」

 思わず口から漏れた言葉は、自分でも呆れるくらい陳腐なもので。慌てて飛び起きリビングに向かう。と、ファットガム等身大クッションにもたれて紅茶を飲んでいた小夜と、目が合った。

「……おはよ……さん」
「おはよう。コーヒー飲む?」
「お……おう……頼むわ」

 繁華街のヒーローであるファットガムは、師走のこの時期は多忙を極める。このところ、事件が続き、ほとんど家に帰れなかった。クリスマス当日もそれは然りで、イブである一昨日からクリスマス本番の昨夜まで、ファットは事務所に詰め通し。なんとか日付が変わる寸前に帰宅できたものの、せめて寝る前にゆっくり話でもしようと手をつないで寝室に向かったまでは覚えているが、そこから先の記憶がなかった。

「……もしかして、俺、寝落ちしてしもた?」
「うん。疲れてたのね」

 さもなんでもないという顔をして、小夜がファットの前に淹れたてのコーヒーを置いた。さりげない優しさが、ますますファットの罪悪感をかき立てる。

「スマン!」

 顔の前でぱあんと手を合わせ、ファットは詫びた。

「昨年もこないな感じやったやん。ホンマこの通りや。申し訳ない」
「やだ。そんなの気にしないで。太志郎さんがこの時期忙しいのはわかってるつもりだから」

 そうは言うても、とファットは口ごもった。
 今年は例年に比べても忙しく、プレゼントすらまだ買えていない。小夜はダウンジャケットとニットキャップというプレゼントを用意してくれていたというのにだ。

「いや、ほんま悪いと思とんねん。今日はなんとか休みとれたから、メシ食うたら一緒にプレゼント買い行こか? なんでも好きなモン買うたるで?」

 今日の休みも、なんとかねじ込んで、やっととれた休日だった。また明日から年始まで、業務に忙殺される日が続くだろう。忘年会だの新年会だの、年末年始の繁華街は人出が増える。となると、必然的に敵も事件も増えてゆく。これはもう毎年のことで自分は慣れてしまったが、それを小夜にも強いるのは、やはり酷というものだ。だからせめて、プレゼントくらいは豪華なものをねだってほしい。

「せや、こーんなデカいダイヤのネックレスでも買うたろか?」

 バーンと両手を広げると、小夜はふふ、と小さく笑った。

「……いや、たぶんそんな大きなダイヤはないし、あったとしても首折れちゃうからね。っていうか、似たようなやりとり、指輪の時にもやったよね」
「まァ、特大ダイヤは冗談としても、今日はおまえの欲しいモンなんでも買うたるし、俺にできることならなんでもしたるで」
「なんでもいいの?」
「おう、男に二言はないで」
「じゃあ……お願いしちゃおうかな」
「遠慮せんで、なんでも言い」

 ところが、「あのね」という言葉で始まった小夜の要求は、ファットの思いもよらないものだった。

***

「……ホンマこないなモンでええん?」
「うん」

 自分の腹に小夜がすっぽり入り込み、にょきりと顔だけ出している。似たような感じで雄英の生徒たちや串カツ屋の坊主を腹に埋めたことはあるけれど、それが自分の惚れた女となると、なんだか少し、妙な気分だ。

「まったくおまえは無欲な女やな」
「そう? こんな贅沢めったにできないと思うけど」

 小夜がファットに伝えた願いは「今日一日、ファットに埋もれて過ごしたい」というものだった。

「すっぽり包まれて、なんだか不思議な感じ」
「さよか。ただずっとこのまんまだとチューもでけへん。それ、ちょおさみしない?」

 言いながら吸着を緩めると、それもそうね、と笑いながら小夜が腹から這い出してきた。その頬に軽いキスを落として、腹の上に小夜を座らせる。

「ほな、こういう埋もれ方でもええ?」
「うん。今日はこのままゆっくりすごそうね」

 おお、と応えながら、こんなんでほんまにええんかいな、とひそかに思った。だがきっと小夜は、これがいいの、と言うのだろう。そういう女だ。

「……せやな。たまには、こんな休日があってもええな」

 ちゅ、と今度は小夜の唇にキスを落として、ファットガムは微笑んだ。
 一日遅れのクリスマスプレゼントは思い切り奮発したるから覚悟しとき、と心の中で呟きながら。

2022.12.26
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