日付が変わった瞬間、太志郎さんがわたしの目の前に箱を差し出した。パッケージはよく見かけるチョコレートメーカーのもの。そろそろ寝ようかと思った矢先だし、こんな時間だし、食べるのは明日でもいいかなと思いつつ、まずはありがとうと気持ちを伝える。と、大きなおめめが、わたしの顔をじっと見つめつづけていることに気がついた。
琥珀色の瞳はキラキラと輝き、まるでちいさな男の子のよう――実際の彼はとてつもなく大きな男性なのだけれど――。
「な。小夜、早よ食べ」
そのかわいさに抗いきれず、クリームソーダが描かれた箱を開けた。中に入っていたのは予想通り、個包装されたチョコレート。
「ではひとつ、いただきます」
ピンク色の小袋を開け、口に入れる。と、パチパチという音とともに口腔でなにかが弾けた。
「……えっ、楽しい。お口のなかがパチパチしてる」
せやろ〜、と胸を張ったのは、少年の心を残した大きな大きな男性で。
「チョコの中にパチパチするアメちゃんがはいっとんねん。おもろいやろ」
「うん。面白くって美味しい」
炭酸が好きなわたしは、お口の中で弾けるポップロックキャンディも大好き。太志郎さんはそれをよく知っているから、このチョコレートを選んでくれたのだろう。
「もう一個いく?」
「おいしいけど、続きは朝起きてからにする。この時間だし」
そか、と彼が納得したように笑った。早よ食べ、と言いはするけれど、太志郎さんは優しいから、決して無理に食べさせようとすることはない。
「今年も一番に味わってもらえてよかったわ」
そういえば、と、昨年のホワイトデーを懐かしく思いだした。誰よりも早く渡したいのだと言って、プレゼントを朝一番に渡してくれたんだっけ。
まあ、わたしもわたしで似たようなことを考えて、バレンタインにはチョコレートのパンを朝食したりしたのだけれど。
もしかしたら、バレンタインデーとホワイトデーは、互いに一番にプレゼントを渡し合うことが恒例になるのかもしれない。それは二人だけが知っている、言葉のない約束のようなもの。
そう考えたら嬉しくなって、思わずふふっと笑ってしまった。
「いや、なに笑ろとんねん」
「なんでもない。よかったら太志郎さんも食べる?」
チョコレートの缶を差し出すと、帰ってきたのは満面の笑み。
「おおきに、ほな一個いただくわ」
太い指が器用に小袋を開け、チョコを大きな口に放り込む。太志郎さんが選んだのは、ミント味のチョコだ。
「んまい」
そう言って破顔した太志郎さんを見つめながら「幸せだなあ」と心底思った。それは春のはじめのこと。ホワイトデーの、午前零時十二分。
2023.3.14
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