ひまわりの花言葉

「これは圧巻だ」
「本当ね」

 抜けるような青空の下に広がる、黄色の波。夏の風に揺れるそれは、ひまわりの群れだ。

 あの戦乱でめちゃめちゃになった街の復旧も、ずいぶんと進んできている。この国立公園のひまわりは、件の戦いの後に植えられたものだ。荒廃した地に芽吹いたちいさな葉は、みるみるうちに成長し、何万もの大きな花を咲かせた。
 それがいつしか、この公園の名物となった。いくつもの遊歩道を有する、広大なひまわり畑として。

「大丈夫? 日差し強いけど、日傘いる?」
「私は大丈夫だよ。ずいぶんと暑いけれど、くるみこそ平気かい?」

 中折れのストローハットをかぶったマイトさんが、静かに答える。

「わたしも平気よ」

 彼のそれよりつばの広い麦わら帽子をかぶったわたしも、静かに答えた。そうしてわたしは、ゆっくりと歩を進める。

「これはずいぶんと背が高いね」

 花の大きさが三十センチはありそうなひまわりを見上げて、マイトさんが笑う。晴れ渡った空の色をした瞳に写っているのは、彼に少し似た、大きくて黄色い花。

「ロシアって品種らしいよ」
「いやはや、まったく立派なもんだ」

 にこにこと笑う彼は、目前の大きな花から視線をそらして、遠くを見つめた。その視線の先に咲くのは、丈が低めの八重咲きひまわり。レモンイエローの繊細な花びらは、まるでモネの描くひまわりのよう。

「……あのさ」
「なに?」

 モネのひまわりを見つめたまま「くるみ、いつもありがとう」と、マイトさんがぽつりと呟いた。

「本当に、九百九十九本のひまわりを君に捧げたい気持ちだよ」

 ひまわりにはいくつか花言葉があり、また本数によっても意味合いが変わる。一呼吸置いて、マイトさんが視線を遠くのひまわりからわたしへと向けた。

 九百九十九本のひまわりの花言葉、それは――。

「花言葉のように、何度生まれ変わっても、私は君を愛するよ」
「ありがとう。でもね……」

 かつてオールフォーワンとの戦いで胃袋と肺の半分を失ったこのひとは、それでも象徴として立ち続け、やがて個性を失った。全盛期に一蹴りで大地を割ったオールマイトの長い脚は、もう、かつてのような力は出せない。

 それでも、と心の中で呟いた。

 あなたが生きていてくれて良かった。あなたがわたしの隣で笑っていてくれるなら、それだけでいい。だから――。

「生まれ変わるなんて言わないで、今の生を……これからも大事に生きて欲しいの。そうしてくれたら、わたしは九十九本のひまわりをあなたに捧げる」

 マイトさんが、きゅ、と唇を引き結んでから、ストローハットのつばを引いて、下を向いた。

 九十九本のひまわりの花言葉は、永遠の愛。博識なこのひとが、それを知らないはずもなく。

「これからもずっとわたしを愛してね」

 そう言いながら、マイトさんの細いけれど広い肩を抱きしめる。と、彼は小さく頷いて、次に、大きく破顔した。彼によく似た、ひまわりのように。

2024.7.20
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月とうさぎ