洋館を背に、秋の薔薇が咲き誇っている。
例年であれば花の盛りは十月半ばだ。しかし今年はいつまでも暑かったせいか、十月末日の今日が見頃。庭園は満開の薔薇で埋め尽くされていた。
「ねえ、マイトさん。今年もあなたの薔薇が咲いたね」
そう言ってくるみが向かった先には、巨大な黄色い薔薇がある。花の名は「オールマイト」だ。要請があったので、品種登録の際に名の使用許可を出した。その時は少し迷ったが、こうして私の名を持つ薔薇を前に喜ぶくるみを見ていると、してよかったなとしみじみ思う。
法王猊下や女王陛下の名を冠する薔薇に交じって咲く己の薔薇を見ていると、少しこそばゆいけれど。
「私はこっちのカップ咲きの薔薇が好きだな。君みたいで」
愛らしいシルエットのピンク色の薔薇を指すと、くるみはまた、満足そうに笑った。
「ところでマイトさん、今日のその服さあ……」
「おや、気づいてくれたかい?」
「そりゃ気づくよ。あの映画の、あのキャラを意識したんでしょう?」
今日私が着ているスーツは、黒地に白のストライプ。ハロウィン風のクリスマスをテーマにした映画に出てくる、パンプキン畑の王様が着ているのと似た柄だが、形は普通のスーツだから、仮装と呼べるほどでもない。
当然ながら、くるみも仮装はしていない。いたって普通のきれいめファッション。
「マイトさんは背が高くて手足が長いから、そういうの似合うよね」
「君もかわいいよ」
「それは知ってる」
相変わらず、私の小悪魔はぶれない。そう内心でひとりごちていると、くるみが私を見上げて、にこりと笑った。
「トリック・オア・トリート」
え? それ、ここで言うのかい? 仮装もしていないのに?
するとくるみは、こちらの想いを見透かしたように得意げな顔をした。
「先制攻撃。仮装はいらないの。だってわたしはあなたの小悪魔だから」
「それは……ずるいな」
ちゃめっけたっぷりなくるみに苦笑を返すと、彼女もまた嬉しげに笑む。
「残念ながら、今お菓子は持っていないな。さあどうする? 私にいたずらをするかい?」
「……どうしようかな」
「それじゃあさ、お菓子のかわりに私の気持ちをあげるよ。それでいい?」
告げながら、隠していた一輪を差し出した。花弁の面は赤で裏が白という、少しかわった色合いの薔薇だ。
案の定、くるみは目を丸くしている。ああもう本当に、くるくると表情を変える君が心の底から愛おしい。
「それ、どうしたの?」
「さっき売店で買ったんだ。君が薔薇のハンカチを買っている時に」
「……ぜんぜん気がつかなかった」
そうだろうね。君はハンカチの柄を選ぶのに夢中だったから。
「これは私の気持ちだよ。君はこの薔薇の名を知っているかい?」
「…………LOVE」
「そう。私からの愛を、君に」
「マイトさんずるい。こんなのもらっちゃったら、いたずらできないじゃない」
「いいのさ、それは私が君にするつもりだから」
「それは決定なの? お菓子があっても?」
「うん。決定。なぜって、ここには愛があるからさ」
ばか、と、愛という名の薔薇を手にしたくるみが笑う。そんな彼女を見つめて、私も笑う。満開の薔薇の園で。
お菓子も仮装もないけれど、たまには、こんなハロウィンも悪くない。
2024.10.31