クリスマスの朝に

「ん……」

 半ば目覚めつつ、もう少しこのままでいたいと思いながら、あたたかい布団の中でごろりと寝返りを打った。
 と、ぼよん、ともっちりした巨大ななにかにぶつかった。わたしよりも体温が高くて、ずっと大きくて、もちもちしているそれは、太志郎くんの身体だ。
 昨日はクリスマスイブ。太志郎くんは関西で一二を争う繁華街を守るヒーローだから、そういうイベント的な日の帰りは、当然ながら遅い。朝帰りどころか、昼くらいまで帰れないこともざらだった。
 ヒーローと添うというのはそういうことだと理解してはいたけれど、帰ってこられないと思っていたひとが目覚めたら隣にいることは、やっぱり嬉しい。

 とてもじゃないが、眠ってなどいられなくて、そっと目をひらいた。
目の前には、おおきな太志郎くんのおおきなお腹と太い腕。このひとは、この身体で悪を倒し、人々を守ってきたんだなと思うと、まんまるのその身体すら、尊く感じてしまったりして。
 でもそんな彼が、今はわたしの前で無防備な姿をさらしている。それもまた、とても嬉しい。時々聞こえてくるちいさないびきさえも、ひどく愛しくて。
 湧き上がってきた感情が抑えきれずに、丸太みたいな太い腕に、そっと顔を寄せた。

「……ん」

 と、太志郎くんが声を上げる。起こしてしまっただろうか。

「オウ、なまえ。……おはようさん」

 寝ぼけ眼をこすりながら、太志郎くんがささやく。だからわたしも「おはよう」と応じた

「昨日はイブやのに帰ってこられなくてすまんかったな」

 すまなさそうに告げたその声は普段よりもさらにしゃがれていて、彼の疲れを物語る

「そんなのいいよ。だって、帰り遅かったんでしょう?」
「ン……。五時くらいやな……」
「それ朝じゃん! 寝て!」
「いや。クリスマスやし、今日は非番やから、今からどっかいこか?」
「いいから寝て」

 だって今はまだ九時だ。太志郎くんは四時間も寝ていない。そんな状態の彼を連れ回すことなんて、いくらなんでもできるはずない。

「せやけど、なまえ……」
「いいから……お出かけは夕方か夜にしようよ。まずは寝て。ね」

 そう告げて、もちもちのほっぺにキスをする。と、太志郎くんは大きく息をついたあと、ちいさく「おおきに……」と言って、目を閉じた。やはり、疲れきっていたのだろう。
 おおきなおなかにそっと布団をかけてから、おやすみ、と告げて、そっと寝室を後にした。

***

 マグにティーバッグをセットして、電気ケトルのスイッチを入れる。と、リビングに設置されたクリスマスツリーの下に、プレゼントボックスが置かれているのに気がついた。

 ……ちゃんと用意してくれてたんだ。あんなに忙しいのに。

 太志郎くんの思いやりが嬉しくて瞳を潤ませていると、ケトルから沸騰を知らせる電子音が鳴った。熱々のお湯をマグに注ぎながら、わたしは思う。

 これを飲んだら、わたしからのプレゼントを枕元に置いておこうと。

 目覚めた太志郎くんは、どんな顔をするだろう。きっとおおきなおめめをまんまるに見開いて、大げさに喜んでくれるに違いない。
 その姿を想像するだけで、心が温かくなってしまうのだから、本当に。
 大きくて優しくて強い人の笑顔を思い浮かべながら、淹れたばかりの紅茶を一口飲んで、心の中でちいさく呟く。

 メリークリスマス、太志郎くん。これからもずっと一緒にすごそうね――と。

2024.12.25
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