「今からそっち行ってええ?」
「いまから?」
と、思わずオウム返しした。
いくら恋人同士でも、いきなり会いにくるにはいささか常識はずれの時間だ。
「わたし、寝るとこだったんだけど」
「や、ほんますぐ帰る。顔だけ見たらすぐ帰るから! 絶対上がり込んだりせえへん。どうしても。いま会いたいねん。な? ええやろ? な?」
わたしの恋人は、大きな身体で敵を捕らえて市民を守る、大阪の誇るヒーローだ。けれどその大きくてつよいヒーローは、実はとっても甘えじょうずで。
だからわたしも、ついつい甘やかしてしまう。
「じゃあ、ちょっとだけね」
「おおきに!」
明るい声でそう応え、太志郎は通話を切った。
しょうがないなあ、と息をつき、きびすを返した。今夜は思いのほか冷える。お茶くらいなら、出してあげてもいいだろう。
だが次の瞬間、鳴り響いた呼び鈴の音。
「え? もう?」
やや驚きながら、インターフォンのモニターを眺める。画面に映し出されたのは、予想の通り、丸くて黄色いわたしの恋人。
マンションの下からかけてたのか、と内心で呟きつつ、玄関の鍵と扉をあけた。
「こないな時間にスマンな」
「まあ、いいけど。どうしたの?」
「うん」
と、太志郎が口ごもりつつ、後ろ手で扉を閉める。
そして彼は、いきなり円錐形の紙容器をわたしに向けた。
「ハッピーバースデー!」
ぱん、という音と共に円錐の底面が弾け、中から紙吹雪とテープが飛び出した。
「誕生日おめでとう!」
英語と日本語で同じことを告げ、太志郎が高らかにわらう。
「……もしかして、このためだけに来てくれたの?」
日付がかわる瞬間を狙って、わざわざ。
「せやで。一番最初にお祝いしたかったんや」
照れくさそうに笑いながら、太志郎が腰をかがめた。彼が何を待っているのか、言われなくてもよくわかる。
もう、本当に甘えじょうずなんだから。
でもお祝いの言葉を告げるためだけにわざわざ家まで着てくれた、その気持ちはやっぱり嬉しい。一番最初にお祝いしたかっただなんて。かわいいやつめ。
だからわたしは精一杯背伸びして、太志郎のやわらかなほっぺを両手で包んだ。感謝のきもちを表するために。
「ありがと」
そう告げて、おおきなおくちに触れるだけのキスをする。と、太志郎が「おおきに」と破顔して、きゅうとわたしを抱きしめた。
2021.12.7
輪ゴムさんのお誕生日プレゼントとして捧げたネームレスのファットガム夢です
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