かわいいは正義

 太志郎からその連絡が来たのは、午後九時を回った頃のことだった。

「今からそっち、いってええ?」

 なんの装飾もない、要件だけを告げたメッセージ。
 夜遅いけれど、人気ヒーローである彼は多忙で、会える機会はそう多くない。しかもわたしは明日休みだ。だから「いいよ」と即座に返事をし、携帯端末をテーブルに置いた。

 と、そのとたん鳴ったのは、端末ではなく玄関のベル。
 え、と小さく声をあげ、モニターを確認すると、見慣れた黄色いコスチュームの、丸い身体の一部が見えた。
 なにせ太志郎は大きすぎるものだから、うちのモニターではいつも見切れてしまうのだ。
 それにしても、返事をしてから到着するまでが早すぎる。どこから連絡をしてきたのだろう。もしかして、マンションの入り口から? わたしが不在だったら、そのまま帰るつもりだったのだろうか。

「まったく……」

 呟きながら扉を開ける。と、久しぶりィ〜、という声と共に太い腕に抱きすくめられた。
 「どうしたの?」とたずねると、「これ」という声と共に四角い箱が突き出された。見覚えのあるパッケージは、有名果物専門店のもの。

「桃のケーキや! うまそうやろ!」
「……うん。箱に入ってるから見えないけど美味しいだろうね。それにしても、どうしたの? 突然」
「や、これめっちゃうまいて評判やねん」

 だから、それは知ってる。そこのフルーツケーキはどれも間違いなくおいしい。

「でな、店の前通ったら、なんやおまえのこと思い出してしもて……せっかくうまいモン食うんならおまえと一緒がええな思て」

 照れくさそうにそう告げて、太志郎はこちらに大きくかがみ込み、目線を合わせてにかりと笑った。

「ほんまはそのまままっすぐこっち来たかったんやけど、いくつか事件があってこんな時間になってもうた。あ、せやけど大丈夫やで、これはちゃんと冷蔵庫に……」

 入れておいた、と続いただろう言葉を遮って、もっちりした頬に口づけた。

「――ッ!!」

 赤くなって照れる太志郎にありがとう、と告げる。返されたのは、「……おう」という、蚊の鳴くようなちいさな応え。
 ああもう本当に、太志郎のこういうところがかわいくてしかたない。ふだんの男っぽい姿とのギャップが、あまりに大きすぎるから。

「とにかくあがって。一緒に食べよ」
「ん……」

 ややはにかみながら、太志郎が答える。だからわたしも笑顔をかえした。おいしいものを一緒に食べたいと、一番に思い出してもらえたことがとても嬉しい。
 飲み物はコーヒーでいいだろうか、とたずねようとして彼を見上げる。すると太志郎は、その大きなお顔に満面の笑みを浮かべた。

「ケーキより、おまえを先に食べたいわぁ」
「調子にのらない」

 ふくふくした両のほっぺをつまんで、みゅーんと左右に伸ばしてやった。

「ほへんなはい(ごめんなさい)」

 わたしの手くらい簡単に振り払えるくせに、太志郎はぜったいそんなことはしない。こういう時の彼は、眉をさげて素直に謝る。このひとは本当に、強くて頼りになるヒーローでありながら、かわいげの塊だ。本当に、憎めないというかなんというか。
 だからついつい、こちらも甘やかしてしまう。

「そっちはケーキのあとでね」

 エッ、と目を丸くした太志郎を置いて、わたしはキッチンへと歩き出す。まったくもって本当に、かわいいってのは正義だなぁ、と思いながら。

2022.2.27

黒糸さんに書かせていただいたネームレスのファットガム夢
私の中のちょっとしたお遊びとして、HappyBirthdayと同テーマで書かせていただいたのでシチュがややかぶっています


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月とうさぎ