夜分遅くの出迎えにしては盛り上がりすぎだと思わないでもないけれど、迎えるほうより迎えられるほうのテンションがより高いのだから仕方ない。
もふり、と逞しくもやわらかい胸と腕に抱き留められて、微笑みながら彼を見上げた。視線の先にはまあるく大きなおめめとおくち。
「なにか食べます?」
「せやなぁ、飯は連絡したとおり食うてきたけど、ちょおつまめるもんがあったら嬉しいわ」
「キッシュと鶏チャーシューがありますよ」
「そら豪勢やな。いただくわ」
「じゃあ、お風呂入ってる間に温め直しておきますね」
「おおきに〜。俺はほんましあわせもんやなぁ。もう一つお願いがあるんやけど、食べもん用意したあと、もうちょっとだけ起きとってくれる?」
ちゅっ、とおでこにやさしいキスを落として、太志郎さんがささやいた。
珍しいことだ。
時刻は十一時四十分。いつもの彼なら、先に寝ててと言ってくれる時間帯だ。――と言われても、太志郎さんが食べるところを見ているのが好きなわたしはなんだかんだと起きているのだけれど。
もしかして、このあと夜のあれそれがあるのかな、だなんて考えてしまったりして。だって、明日は――。
けれど続けて告げられた言葉に、わたしはがくりと肩を落とした。
「明日は俺も休みやし、おまえもなんも用事ないやろ?」
明日のこと、彼は忘れているのだろうか。
「どないした? もしかして誰かと約束でもしとった?」
「ううん。明日は一日空いてます」
「よかったぁ。ほな風呂行ってくる。起きて待っとってな」
満面の笑みを浮かべた太志郎さんに、うん、と小さく答えて、下を向いた。
***
鶏チャーシューを切り分けて、白髪葱を添え、皿に並べた。テーブルの上にはすでに温め直したキッシュと冷凍の枝豆の用意も出来ている。あとは太志郎さんがお風呂から出たタイミングに合わせて、ビールを出すだけ。
と、その時、お風呂から出てきた太志郎さんがリビングに現れた。大きな手に握られているのは、パーティグッズのクラッカー。
どうしたの、とたずねようとした瞬間、彼がそれを炸裂させた。
「お誕生日おめでとおー!」
予想外の展開に、目を丸くしたまま立ち尽くしてしまったわたしを見下ろして、太志郎さんが愉快げにわらう。
「なんや、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して」
やや呆然としながら、掛け時計をみあげた。時刻は0時ちょうど、つまり、日付がかわったところ。
ああ、と思った瞬間、ぽろりと涙が零れ出た。
「え……ええ、どないしたん? びっくりさせすぎてしもた?」
「ごめんなさい、ちがうの……わたしの誕生日なんて忘れてるだろうなって思ってたから」
「俺がお前の誕生日忘れるワケないやろ」
「うん……」
太くてもっちりした腕が伸びてきて、わたしをひょいと抱き上げた。
「覚えといてや。おまえが思ってるよりずっと、俺はおまえのこと好きなんやで」
「うん」
「明日……っちゅうか、もう今日やな。一日空いてんねやろ? ふだん忙しゅうてかまってやれへんぶん、今日はたくさんええ思いさせたるから、楽しみにしとき」
やさしい笑顔にまたしてもうんと答えて、あたたかな腕に顔をうずめた。何を言われても、今はイエスとしか応えられない。
それは春と呼ぶには肌寒く冬と呼ぶには暖かい、わたしの誕生日の夜のできごとだった.
2022.2.28
Qさんのお誕生日に書かせていただいたネームレスのファットガム夢
私の中のちょっとしたお遊びとして、「Happy Birthday」「かわいいは正義」と同テーマで書かせていただいたので、シチュなどがかぶっています
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