関西でも指折りの繁華街であり、観光地でもある、この巨大な街を守っているのは、わたしの大事な恋人だ。
小さく息をついて、時計を眺めた。時刻は十時。先ほど彼から「いったんなまえの顔見に家に帰るわ!」という連絡がきた。このところ豊満くんは忙しく、三日ほど家に帰れていない。
心配だなとひとりごち、ふたたび息をついたその時、玄関の方で物音がした。扉を開けたのは、きっとわたしの待ち人だ。
心弾ませながら、だがそんなことはおくびにも出さず、玄関ホールに顔を出す。と、予想通りの人が、予想外の姿になってそこにいた。
「ただいまぁ」
そう言って太陽のように笑んだのは、普段より二回りも三回りも痩せてしまった豊満くん。その姿を見ただけで、今の任務がどれだけ過酷なものか予想がついて、胸の奥がきりりと痛んだ。
「お帰りなさい」
「おん。せやけど、すぐにまた現場戻らなあかんねん。すまんな」
「それ、さっき聞いた。でもどうしたの? 着替えなくなっちゃった?」
「いや、着替えは大丈夫。違うもんがたりなくなってもうてな」
「違うもの?」
うん、と大きくうなずいて、豊満くんが照れ臭そうにつぶやいた。
「なまえがたりんねん」
豊満くんはこういうところがずるいのだ。しれっとこういうことを言ってくる。こんなに大きくてカッコいいのに、こんなにもかわいいのだから、本当に。
そう思いながら口元を緩めた瞬間、目の前で、長い両腕が開かれた。
「充電させてェー」
甘えるような声と共に、あっという間にわたしは彼の腕の中。逞しい腕に包まれて、広くて厚い胸を押し付けられて、その上足まで絡められたのだからたまらない。
「ちょ……苦しい」
「ああ、堪忍」
わたしを包み込んでいた手足の力をすこし緩めて、豊満くんがまた笑った。
「少しだけこのままでいてもろてええ?」
「しょうがないなー」
さも仕方なくといった体で応じると、おおきに、という低いささやきが返された。
「なまえ不足で死にそうやったけど、これでこのあとも頑張れるわ。もうちょっとで片付くから、それまで待っとってな」
うん、とうなずきながら、ひそかに思う。
ハグで満たされたのは、豊満くんだけじゃない。このぬくもりはわたしにとっての充電でもある。この三日間、どれだけあなたに会いたかったか。
「苦しない?」という問いかけに、「大丈夫」とさらりと答え、厚い胸に、顔をうずめた。小さな幸せをかみしめながら。
2022.5.26
Twitterでのやりとりから生まれた夢小説。daiさんのイラストを元に書かせていただきました
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