墨色の夜空に輝く、金色でまんまるなお月さまは、わたしの彼と少し似ている。
「なん?」
いつもの丸い姿とは異なる精悍なおもてに不思議そうな表情を浮かべ、太志郎が眉をあげた。
「よく食べるなと思って」
わたしの口から出たのは、考えていたのとはまったく違う言葉。
「そんなんいつものことやんか」
山と積まれた柏餅を次から次へとたいらげながら、太志郎が応える。
「おまえももっと食うたらええんや。うまいやろ」
「わたしはもう、おなかがいっぱい」
柏餅は大きくてボリュームがある。食後のデザートには、ひとつ食べれば十分だ。
「しかし、月と柏餅ちゅうんも、オツなもんやな」
「季節外れじゃない? それにお月見にはお団子でしょう?」
「こまいことはええねん。月がきれいで食いもんがうまくて、そのうえ惚れた女が隣におる、これ以上のことはあらへんわ」
こういう時に、しれっと「惚れている」というワードを入れてくるから、この男は油断ならない。こんな時わたしがかわいい女であったなら、頬のひとつも染めてみせるのだろう。けれど残念ながら、わたしはそういうタイプではなく。
だから無言のまま、ちいさく息をついた。
「えー、今のスルーしてまうん? 愛の告白やん」
「いいから食べなさいよ。一刻も早く体型を戻さなきゃいけないんでしょ」
意図したよりも冷たい口調になってしまったことを、心密かに後悔した。どうしてわたしはこうなのだろう。甘い言葉を告げることすらできないなんて。
だが鷹揚な太志郎は、そんなことは意にも介さぬようすだった。彼はすごい勢いで柏餅を食べつつ、また笑う。
「それもそうやな」
太志郎はおおらかで、そしてやさしい。本当はそんな彼が大好きなのに、気持ちをストレートに伝えるには、わたしは素直でなさ過ぎて。
「はー、うまかった」
山のように積まれていた柏餅をすべてたいらげ、太志郎は大きな手で湯飲みをつかみ、ずずっとお茶をすすった。
「……ね、太志郎」
「なん?」
「月が、きれいね」
え、と太志郎はほんのいっしゅん目を丸くして、そして次に、にやりと笑った。それは言葉の本意を、理解した顔。
「せやな、きれいや」
「そこは死んでもいいって返すとこでしょ」
「せやけど、死んでまうのはもったいないやん。せっかく同じ気持ちなんや、どうせやったら死ぬんやのうて、一緒に生きよ」
それはあまりにもさりげない、ふたりの未来を示唆する言葉。
思いがけない提案に頬を染めてしまったわたしをみとめて、太志郎がまた、大きくわらった。
初出:2022.5.3
出番ULTRA2022無配ペーパーより
同タイトルのオールマイト夢を「みじかいお話」に掲載しています
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