ミントグリーンの涙

 長すぎる梅雨が明け、訪れた夏は猛暑だった。胃袋のない身に、この暑さはひどく堪える。

「ただいま」
「おかえりなさい。外は暑かったでしょ」
「ああ、溶けちまいそうな暑さだよ」
「さっきアイス買っきたんですけど。食べます?」

 そう言って笑う彼女の手には、ブライアンロジャース――BRのロゴで有名なアイスクリームショップ――の、レギュラーサイズのアイスが二つ。

「いいね。ただ、今の私にそのサイズはちょっとキツいかな」
「じゃあ、半分こしましょう。ポップロックシャワーとストロベリーチーズケーキ、どっちがいいですか?」
「ポップロックシャワーがいいな」

 口の中で弾けるポップロックキャンディーの食感を思い出しながら、そういらえた。

「器取ってきますね」
「まって」

 彼女の手を取って、そっと甲にくちびるを寄せた。とたんに頬を染める君は、いつまでも初々しくてかわいい。

「スプーンは一つでいいよ。たべさせて」

 甘えるように告げると、君は少しはにかみながら、白とミントグリーンのアイスクリームをひとさじすくった。かぱりと口をあけて待つ。数秒ののち訪れたのは、キャンディーとミントの清涼感ある甘さ。

「ん。おいしいね」

 ふふ、と笑って、君もひとくちアイスを食べる。
 その瞬間、不意に涙がこぼれそうになって、慌てて目頭に指を当てた。

 この身を平和の礎に。そう思い、孤独の中で生きてきた。後悔はない。むしろそれが誇りですらあった。君に出会ってしまうまでは。
 けれど、夏の昼下がりに君と二人でアイスを食べる。そんな小さなことが、引退した今となっては泣きたくなるほど幸せだ。
 これを堕落と呼ぶのか、それとも進歩と呼ぶのか、私にはわからないけれど。

 この幸せを大切にしていきたいと、私は切に、願い続けている。

2020.8.9ペーパー発行
2020.9.29サイト掲載

2020年 8〜9月 BOOSTお礼ペーパーより

月とうさぎ