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紅色小径
▼2022/04/26/01:54



「あともう少しですから!」
「…ッは、…そ…、れ…10回…目」


 愛する貴方の手を引いて 
 歩く昼下がり

 小さな春へいざな
 秘密の小径
 
 なんとしても
 兄上にご覧頂きたく

 「縁壱、まだ着かぬのか」と
 繰り返される兄上に

 申し訳なく思いつつも
 同じ御返事を幾度も御伝えする


「次の角を曲がったところに御座います」
「…ん。しん…じておるぞ」


 なるべく人目にはつかぬ
 然れど出来得るだけ

 兄上の御目を
 楽しませてあげたし、と

 数カ所の春の息吹が見ゆる場所に
 立ち寄りながら

 遠回りさせてしまい過ぎたかと
 ちくりと心が痛めども

 兄上と平日に出掛けることは
 滅多に無いゆえ

 嬉しさのほうが勝った結果と
 御容赦下さい

 心の中でお詫び申し上げながら
 先を急ぐ



「兄上、ご覧下さいませ!」
「…ああ」


 芽吹き、色付きはじめた植物の
 浅緑の迷路をようやっと抜け出せば

 一面に広がる紅白黄紫の色彩の海と
 重なる花のあまい香り

 チラホラと咲き始めた桜も
 趣き深く


「如何でございますか?」
「みごと…なり」

 
 縁壱の大好きな
 瞳が大きく見開かれる


 「ね、見事で御座いましょう?」
 「………」


 目の前の
 美しい春の光景と

 最愛の兄上の御姿を
 交互に見て

 自然と
 笑みがこぼれる


 縁壱の手を握り返す力が
 不意に強くなると

 私の顔を御覧になる
 兄上が

 咲き誇る如何なる花よりも美しく
 微笑まれる

 嗚呼
 叶うのならば

 此の笑顔を
 永久に留めておきたし


「縁壱、ありがとう。桃源郷というものが
 在るとすれば、まさにこの場所だな」
「兄上に喜んで頂けたのならば幸せです」

「ああ、大満足だ…」
「良う御座いました」


 また今年も
 兄上と一緒の春を過ごせる

 縁壱の浮き立つ気持ちを
 読んだ如く

 爽やかな風が吹き抜け
 雲雀が囀る

 さらに

 空は春霞に曇りつつも
 温かな陽射しが地上に降り注ぐ


「兄上」
「ん?」
「来年もその先も末永く、縁壱と同じ景色 
 を隣で見て下さりますか?」


 珍しく着けて下さった
 指輪の輝く薬指に口づける


「今日、外出に際して指輪これを着けたことが
 答えだ」
「はい、ありがとう、ございます…」


 兄上の御気持ちが嬉しくて
 思わず涙ぐむ


「泣くでない。私には縁壱しかおらぬ」
「あに、うえ…」
「私の瞳に映って良いのは縁壱だけぞ…」


 御美しく御優しい指で
 縁壱の涙を拭ってくださる

 その御手を掴み抱き寄せ
 長く深い口吸いキスを交わす

 そんな
 私達の姿を隠すよう

 幾多の花びらが
 一斉に舞い上がった










********************
 桜を背景とした
 キスシーンもだいすきです

 兄上と縁壱サンの熱愛ぶりに
 当てられて

 其処だけ一気に
 花々が狂い咲いたら

 もっともっと素敵 (*˘ᵕ˘*)








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