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SHU⧿雨に揺蕩たゆた
▼2022/07/11/01:05



「あにうえ?」


 紅茶を御持ちし
 兄上の居られるリビングに入ると

 お気に入りのソファにくたりと
 御身体を預け乍ら

 ぼんやりと
 外を御覧になられる御姿が

 白黒映画の一場面の如く
 飛び込んできた

 
「…よりいち」


 私の足音に

 ゆるりと振り向かれた御顔と
 物憂げなる御声は

 魂すら奪われる程に
 御美しくて…


 テーブルに銀盆トレイを置く間も
 もどかしく

 急ぎ
 ソファに近づくと

 今にも
 儚くなってしまわれそうな

 たゆげなる御姿を
 我が腕の中に留め置かむと

 そっと御頬に触れくちづけると
 つよく強く抱きしめた


「んっ…より、いち」


 耳元で囁かれる
 気怠くも妖しさを纏う御声に

 一層
 心の臟が跳ね上がる



「あにうえ…如何なさいましたか?」
「あめ…」

「雨?」
「ん…」


 いつの間に
 降り出したのか

 窓外には
 白糸の如き細い雨が降り

 景色は無声映画の街並みに似て
 朧に霞んでいた


「うつくしいな…と」
「はい。然れど、兄上の方が幾倍も御美しく
 御座いますよ?」
「ふふっ…ばぁか…」


 くすくすと楽し気な
 忍び笑い

 縁壱の耳に掛かる
 薔薇しょうびの吐息と

 頬をくすぐる
 藤の花房の如き射干玉の御髪
 
 たおやかなる両腕が
 縁壱の背中をつうと這うや
 
 愁眉を開かれ
 縁壱の名前を呼びつつ

 抱きついていらっしゃる…


 このまま
 じかんを凍らせ

 世界に縁壱と兄上
 二人だけになってしまえたら…

 


「…よりいち」
「はい、兄上」

「ずっと、お前の腕の中に居たい…」
「喜んで」

「…片時も離すな」
「兄上の仰せのままに」
「……ん」
 


 斯様に
 愛する貴方を腕にいだ

 茫乎ぼんやり
 雨を眺めつつ過ごすのも

 素敵で御座いますね


 視界の隅に映る
 すでに湯気の消えてしまった

 桜の香りの紅茶に
 心の中で「申し訳無い」と呟き

 兄上の御顔中に
 口付けの雨を降らせた










********************
 驟雨しゅううは春雨や小糠雨とは真逆の
 激しい雨だけど、発音がすき

 音だけ聞けば
 愁、囚、祝、執…って

 イロイロ変換できるなぁって
 妄想した結果

 どれも兄上の御心を表していそう
 (,,>ω<,,)








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