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「やっぱポニーテールできてハチマキつけると可愛いね」
「ツインテールもかわいいと思うよ?ほら!」
「あはは、やってくれてありがとー」

体育祭当日。うちのクラスは女子更衣室なため、そのままヘアアレンジ教室が始まった。これから汗をかくというのに、合同で使ってる隣りのクラスの女子たちはメイクに必死だ。我がクラスは学年トップを取るのに必死なので、ヘアアレンジだけで満足している。

「合唱コンで散々馬鹿にされたからね。運動バカってことを見せてやる」
「え、いずれにせよ馬鹿なのでは?」
「いいの!どっちかが秀でてればそれで!」

といった具合のクラスなので、みんなやる気満々です。ただ、隣りのクラスの女子たちも、男子を応援するなら一番可愛い自分で居たい、という理由でメイクしているらしいから、特にいがみ合うこともなく。まあ、そっちのクラスはイケメンと呼ばれる男子が多いもんなー。

「おはようさゆみ!」
「ああスーちゃんおは……え、ええ?何してんの?!」
「レディガガの真似!んーまっ!」
「いやいや肌荒れちゃうよ?!てかそれおちんの?!」

教室の前を通りかかったスーちゃんは、瞼に目を書いていた。いつぞやの海外アーティストの真似らしいが、これから日差しを浴びに行くというのに何故……と聞けば、面白いことがしたかった、とのこと。スーちゃんのクラスの男子は、アバターのモノマネで顔や腕を青いペンキで塗りたくってるらしい。なるほど4組は頭の悪い集団が揃ってるってことだ。

準備を終えて外に出れば、クラスの男子がもうすでに集まっていて、早くしろと怒られた。すでに肩を組んで待っているあたり、やる気は十分である。ろくに練習をしなかった合唱コンと気合の入り具合が違いすぎる。ぞろぞろと輪になれば、いつもと変わらない表情の赤葦くんと目が合った。

「2年6組、全クラスぶっ倒して一位取るぞー!!」
「「おー!!」」
「やるぞー!!」
「「おーー!!」」

真っ青な空の下、二度目の体育祭が幕を開けた。


***


気合が入っていただけあって、大縄跳びでは全クラスで一位を取った。危うく赤葦くんの先輩である木兎先輩が率いる3年1組に追いつかれるところだったが、5回ほど2年6組の方が多く飛べたので安心した。そのせいで無駄に絡まれていた赤葦くんは、なかなかに可哀想だったけど。
ムカデ競争が始まってクラスメイトが応援してる中、喉が渇いてクラスごとに用意されたブルーシートへ戻れば、座りながら天を仰ぐ赤葦くんが居た。

「こっちに居たんだ」
「さとうか。ほら、次だから」
「ああ借り物競争ね。こっちのが近いもんね、招集所」
「そう。変なの引かないように祈ってて」
「噂だと尊敬する人って紙が入ってるらしいよ」
「それならすぐ呼べる人がいるからいいけど」
「あと連れてくる方法?まで書かれてるんだって。手をつないでとか、肩を組んでとか」
「……まじか」

ちょこっと離れただけで、向こうの声援が遠くのものに聞こえる。あの中に居ると、大声で叫んで応援せずには居られない!って気になるのに、外に出てきたら出てきたで、必死だなあ…と客観的に見てしまう自分にちょっと笑ってしまった。

「<−続いて、借り物競争に出場する生徒は、招集所へお集まりください。繰り返しますー>」
「お、呼ばれたよ赤葦くん」
「ん……」
「6組のために頑張って!」

振り向かずに左手を上げた赤葦くんを見送って、私はクラスメイトの輪の中に駆け込んでいった。
ムカデ競争は見事、野球部のチームワークが遺憾なく発揮された結果学年では1位を取ったらしい。見てなかったって言ったら出てた子たちに怒られた。ごめんね、と軽くあしらいつつ、見えやすいポジションを陣取る。今は一年生が先に走り出していて、女の子がひとりこちらへと走ってきた。

「すみません!二年生で赤組のバスケ部の先輩いらっしゃいますか?女バスです!」
「ええなにそれめちゃくちゃ特定されてる……」
「さっちん行っておいで!!」
「オッケー任せろ!」
「非常に申し訳ないのですが、おんぶして走れってなってて……」

おずおずと噂で聞いていた連れて行き方を話した下級生に、クラスはドッと湧いた。女バスのさっちんは練習で慣れているからとすぐにしゃがみ込み、女の子をおぶって走り出した。

「かっけぇ……」
「さっちんが女子にモテる理由がわかる気がする」
「あんなの王子さまじゃん…しかも一番」

周りを見ると一年生は同学年の子ではなく、先輩たちと交流が取れるようにされてるのか、各々の色の先輩ゾーンへと駆けていく。あ、いま白組が男女ペアで走り出した。あれ、赤葦くんとこの木兎先輩じゃん。ってうわ、お姫様抱っこしてる……。

「あんなんされたら明日から学校来れない」
「別に好きな人を連れてこい!とかじゃないからいいっしょ。あれもきっと、バレー部の先輩って書いてあったんだよ」

そうかなあ……と一年生の安否を心配していれば、あっという間に二年生のターンで。赤葦くんは3組目にいた。
走り出すみんなを追いかけてると、どうやら二年は一年生とは少々異なるようで。色の指定はないように思える。赤組の子が青組へと走っていくのが見えた。ああ、あそこはバド部のカップルだったな。なんて書いてあったら彼女を連れだすんだろ、私だったら恥ずかしくて死ぬ。

「さとう!!!」

なんて考えてたら、視界の左端から声がした。赤葦くんだ。てか、え?呼んだ?

「さゆみ呼ばれてるよ!!」
「ヒューーー!!知らなかったけどお前らデキてんのか!」
「ちっ違う!てか私?!」

クラスメイトたちに押し出されてレーンの中へ。赤葦くんのとこへ向かえば右手を出されて、ああ手を繋ぐって指令なんだなと思って左手を出したら、指先を絡めて走り出す。

「えっ……」
「恋人繋ぎでゴール、っもう少しスピードあげていい?」

周りからの冷やかしが気になりすぎて、頷くしか出来なかった。三年生のゾーンへ入っても、走ってる間ヒューヒューといったチープな冷やかしは止まらない。真っ赤に染まってるであろう自身の顔を隠したくて、必死に下を向いて走っていたら、いつの間にかゴールテープを切っていた。

「はあ…はあ……ふぅ……」
「ごめん、いきなり連れ出して」
「いや、ぜんぜ…ん、うん…自分が走ることになると、思って…なくて…はぁ……」

息が整わないのがこれまた恥ずかしくて、赤葦くんの方を見ることができない。そしたらさっきまで繋いでた右手が、優しく背中を撫でてくれた。うぅ、これでも去年に比べたら部員と一緒に動いたりしてるんだけどな……。

「ありがと、もう大丈夫」
「ほんと?」
「うん。……それより、お題、なんだったの?」

赤葦くんが自分を選んだお題、いったいなんだったのか気になって仕方ない。離れていった背中の暖かさに安堵しながら、返事を待つ。

「『一番仲のいい異性』と恋人繋ぎでゴールする、で、すぐにさとうが浮かんで。一番前に座っててくれて助かった」

戻ろう、と歩き出す赤葦くん。いちばん、仲がいい。かあ……どんな形であれ、赤葦くんの中で自分が一番になれたことがちょっと嬉しくて、けれど戻ったらまた、みんなから冷やかされるんだろうなと思うと戻りたくなくて、絶妙な距離を取りながら歩き出した。多分、こんなに心臓がバクバク言ってる体育祭、二度と来ないだろうな。




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