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「ほんとごめんね……」
「もう謝らなくていいよ!普段からさゆみに頼りすぎだし、この期間で独り立ちする!」
「いや別に生んだ覚えはないので独り立ちもなにも……後輩たちに忘れられたらどうしよう」
「大事なマネージャーを忘れるなんてことないよ。そっちも頑張ってね」

部長に見送られて水泳部の部室を出た。物を移動させるのも面倒だから、ジャージ類は全部部室にそのまま家から運び込んである。一週間会えないかの如くサヨナラをしたけど、毎日ここには来るので会えないわけではない。けどまあ、このまま体育館に向かうんだから不思議だよねぇ。体育の授業以外で足を踏み込むことないよ、体育館って。

「おはようございますー、あ!雀田先輩であってますか?」
「おはよーさゆみちゃん!」
「今日から一週間、よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよー、あとね、名前で呼んでくれたら嬉しい!みっこが呼ばれてて羨ましくてさあ」
「それくらいお安い御用ですかおり先輩!えっと、白福先輩もですかね」
「うん、雪絵のが喜ぶと思うよ。いまね、他校のお迎え行ってる!だからうちらはコートの準備なんだけど…勝手が違うと思うけど、やれることやってくれればいいからね。試合のスコアとかはうちらがやるから、ドリンクの準備とか昼休憩の先回りとか、そんなとこで大丈夫だから」
「はい!まずはドリンクやりますか?」
「先にギブスの準備してもらおっかな。ドリンクは水泳部と違って、ひとりひとりの分用意しなくちゃだから」

アップしてる間に準備しよー。かおり先輩の指示に従って、体育倉庫へと歩き出す。すれ違う部員の皆さんは私が来ることを知っていたようで、よろしくーなんて声をかけてくれた。先に自分の学校だけでも、と思って名簿で名前は覚えてきたけど、合ってるかまだちょっと不安。名前覚えるのは得意な方だけど……。

「おはよ、さとう」
「あ、赤葦くんだ!おはよー」
「なんか、変な感じだね」
「変?あ、水泳部のジャージはうくかな……ごめんね、ベースカラーが黒だから……」
「そうじゃなくて、さとうが体育館に居るのがってこと。プールサイドじゃなくて」
「そっちか!それは私も思う。あと、こうして赤葦くんと話してるのも変な感じだよ」

モップを取りに来たらしい赤葦くんは左に、ギブスを取りに来た私は右奥へと進む。5校だから5色必要かな?そんなに色あるのかな……とりあえずここにある籠、全部運べばいっか。

「困ったことあったら、いつでも声掛けて」
「ありがと。急に決まってビビりまくってたんだけど、赤葦くんと会えたらちょっと落ち着いた。顔見知りが居るってだけで安心感が違うね」
「……そう、それなら良かった」

モップ片手に赤葦くんはこちらへやってきて左手を差し出してきた。意図が読み取れなくて、一度両手にあった籠を置いて首を傾げる。何も言ってくれないから、体育祭の時みたいに右手を乗せてみた、ら。

「……さとうは天然じゃなかったよね」
「ええっ?違うはず、ですが」
「ははっ、籠持つよって意味だった。なんか面白くて突っ込むの忘れたよ」
「あっそういう……いや言われなきゃ分からないからね!?私エスパーじゃないよ!」
「スーちゃんさんのことはなんでも分かるからいけるかなって。…さとう?」

かあーっと顔に熱が集中していくのが分かる。恥ずかしくなって慌てて顔を覆った。赤葦くんはそれを見て笑ってる。

「大丈夫です、自分で持てます」
「敬語……?モップしか持っていかないから、ほら」
「……二年目にして気づいたんだけど、赤葦くんってちょこっと頑固だよね」
「俺は今日、さとうがちょこっと天然ってことを知ったよ」

そう言ってまた笑うもんだから、さらに熱が上昇した。触れてしまった右手が、火傷したみたいに熱い、気がする。火傷したことないけど。

「じゃあせめて半分こ」
「分かった。そっち持って、多分運ぶのはベンチ横でいいはずだから一緒に行こ」

バレー部の手伝いをするってなって、まあ少しは赤葦くんと話せることに期待していたわけですけど、始まりから飛ばしすぎじゃないですか神様。一週間持つんでしょうか。気にかけてくれるのは嬉しいんだけど、心臓が持つかどうかと、公私混同しないことを守り切れるかが心配でなりません。


***


音駒、生川、森然、烏野、4校が揃ってアップもそこそこに練習試合がスタートした。私はというとドリンクづくりに精を出していたので、マネージャーの皆様と仲良くしておりました。烏野のひとかちゃん以外はみんな先輩なので、先に行ってもらって最後まで水飲み場にいたんだけど、作り終えて体育館へ戻ったら、それはもう、ハイレベルすぎるバレーボールが繰り広げられておりました。練習してるところはチラッと見たことあるけど、試合って見るの初めてだ。

「さゆみちゃ〜ん、音駒がタオル足りないっぽいから持って行ってくれる?ついでにドリンクのチェックもお願〜い」
「了解です雪絵先輩!行ってきます!」
「は〜ん、後輩ってかわいいな〜」

雪絵先輩の抱き着き攻撃を存分に受け止めて、隣りのコートで試合中の音駒の元へ。渡されたタオルを補充して、ドリンクの本数をチェックしてたら、コートから音駒の人が入れ替わりでベンチの横にやってきた。

「お疲れ様です、ドリンク取りますか?」
「あーサンキュ、夜久って貼ってあるやつ取ってもらえるか?」
「夜久さん……これですね!」

どうぞ、と渡せばまたお礼を言ってくれた。音駒は唯一マネージャーが居ないらしい。だから梟谷が2校まとめて見てるんだけど、強豪校と聞いたのでマネが居ないのは結構大変なんじゃないかなとか思ったりした。昨晩必死に記憶した名簿を思い出す。夜久さんは確か、試合の時に色違いのユニフォームを着るリベロってポジションの人だったと思う。名簿にあった写真も1人だけ色が違ったので、リベロの人たちは覚えやすかった。まだ1試合目なのに、すごい汗だ…水泳部は汗という概念がないので新鮮。かかない訳じゃないけど。

「マネさん!リエーフです!」
「あ、はい!ドリンクですね!」

そのまま試合を眺めてたら、夜久さんと入れ替わったこれまた背の大きな人がやって来た。立ったままだと威圧感半端なかったんだけど、ニコニコしながら私のとなりにしゃがみ込んでくるものだから、なんだか可愛くて、主語がないよなんて突っ込むこともせずにボトルを渡してしまった。

「俺は1年の灰羽リエーフって言うんですけど、マネさんは?」
「私は2年のさとうさゆみです。短い間だけどよろしくね」
「2年ってことは研磨さんたちと一緒っすね!俺めちゃくちゃ活躍するんで見ててください!」

あまりにもキラキラした目で話してくるもんだから、思わず右手が彼の頭を撫でていた。すると嬉しそうに頭を左右に振るもんだから、撫でる手が加速する。面白くなってふたりで笑い合ってたら、試合が終わったようでホイッスルが鳴り響いていた。

「あはは、リエーフくんの活躍見る前に終わっちゃった」
「次です!次こそはバンバン打つんで見ててください!研磨さん俺にいっぱいトス上げて欲しいです!」
「うるさっ……」
「ドリンク、貰っていい?」
「えっと福永さんですね、こちらです」
「お前は口じゃなくて手を動かせよ!!ったく、マネさんこいつの相手させてごめんな」
「いえいえそんな、うちの部には居ないタイプなのでなんだか可愛くて……」

試合と試合の間は十五分程度のインターバルがある。負けたチームはペナルティがあるらしくって、森然の部員さんたちがスライディング?あれはなんだろう、床に飛び込んで行ってる。あれ、痛くないのかな?んでそれぞれペナルティも終えてひと息つけたら、第二試合って感じのようだ。音駒は確か、次の試合は隣りに移動だったはず。試合中は特段することがないので、このままドリンクを運ぼう。なんて思っていたら隣りのコートから梟谷のメンバーが移動してきた。

「どーよさとうちゃん、バレーは」
「なんか新鮮です、選手が汗かいてるのとか」
「そこ?まあ水泳部は水に流れるもんなー」
「あと私が日陰に居られるのがとてもうれしいなってさっき気づきました」
「ははっ確かにねー。夏休み明けたら真っ黒だもんな、水泳部!」

先にやってきた小見先輩と木葉先輩と話しながら、ボトルの回収を待つ。研磨さんがボトルを戻さずそのまま移動するようだったら、このまま籠を持って行ってしまおう。どうやらこのインターバルに決まりはなく、なんとなくの流れで区切られるっぽい。左手の時計を確認したら、短針が4を超えていた。

「麦わら帽子、被れないね」
「被る必要ないからね。他校の子に貸してきたよ」
「似合ってるから、また見たかったんだけど」
「この間は馬鹿にしたじゃん!」
「してないしてない」
「顔色一つ変えずに言われても。あ、二試合目も頑張って!私あっちにこれ運ぶんだ」

ひらひらと右手を振れば、うん、と一言だけ返ってきた。赤葦くん、ほーんの少しだけど、いつもより声のトーンが低かったな。さっきの試合、調子が出なかったとか?落ち着かなくて色々仕事探しちゃうんだけど、一回くらいちゃんと見てようかな。


「赤葦、リエーフに妬くなよ」
「…なんのことですか」
「え、無自覚?無自覚なの?」
「んなわけねぇだろ赤葦に限って。なあ?」
「……ほら、試合始まりますよ」
「文化祭までには付き合うに1票」
「むしろ合宿中に付き合うでコーラ1本」
「(面倒なことになりませんように)」




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