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合宿三日目、3回目の夕飯ともなると配膳にも慣れてあっという間に準備が終わった。バレー部は水泳部と違って、みんなで一緒にご飯を食べないみたいだ。定められた時間までに食事をとればいいみたいで、まだ自主練をしてる人たちも居る。一応、マネが順番でカウントダウンをしに行くようにしてるんだけど、そうしないと練習し続けて夕飯を食いっぱぐれちゃうみたい。どれほど練習好きなんだ。
「じゃあ私が第一に行くから仁花ちゃんは第二、さゆみちゃんが第三体育館でいいかな」
「はい!!」
「了解です!
烏野のマネージャー、潔子さんの指示通りに第三体育館へと向かう。烏野はジャージが黒だから、並んでても違和感がないんだよね。水泳部のジャージ、黒に赤のラインが入ってるから。にしても、潔子さんもひとかちゃんも肌が白くて綺麗だなあ。流石東北、日焼けしないのかな。とか宮城の美人はなんて言うんだろう、とかあほみたいなこと考えてたら、たどり着いた第三体育館。中を覗けば、丁度ボールを片付け始めてる赤葦くんと目が合った。よかった、知り合いが居るところで。時間ですよーとまあまあの声量で声をかけたら、皆さん外へ出てきてくれたので一安心である。
「今日のメニュー、なんだった?」
「メインは唐揚げだったよ。デザートはアイスだって」
「唐揚げ!?さとうちゃんそれマジ?!」
「大マジです。木兎先輩、急いだほうがいいと思いますよ、烏野の一年生がすごい食べたそうにしてたので」
「うぉおおお!ダッシュするわ!」
「……さとう、三日目にして木兎さんの扱い覚えたの」
「なんていうか、木兎先輩ってスーちゃんみたいなんだよね。バレーが大好きなんだなあってところとか、テンションの振り幅とか」
「ああ、なるほど」
走り去っていった木兎先輩の背中はあっという間に見えなくなっていった。うちの食堂の唐揚げ、美味しいんだよね。唐揚げ丼が一番人気のメニューなので木兎先輩が走り出したくなる気持ちも分からなくはない。
薄暗い校舎を歩きながら、時たま赤葦くんの方を見つつ歩き続ける。練習後の赤葦くんは、いつもよりも饒舌だ。試合中に分からなかったプレーの解説とかもしてくれる。ご飯を一緒に食べれればその時、けれど私も片付けだったり掃除だったりがあるから、初日の夜から、お風呂出た後の自由時間に、食堂のテーブルでちょこっと話をしながら勉強をしたりしている。元々、水泳部の合宿ではその時間に記録をまとめたりしてたのもあって、なんとなく食堂へ来たら、赤葦くんが飲み物を買いに来ててその流れで……といった感じ。練習中じゃないのでこれは良しとした。むしろご褒美ってことで、いいと思うのですよ他所の部活へお手伝いをしている私への。いまは、赤葦くんがつい先ほど起きた月島くん事件について話してくれてる。
食堂へ入れば雀田先輩たちもそれぞれ部員に交じって食事を取っていたので、今日はこのまま赤葦くんと一緒に食べても違和感ないかなあ…とさり気なく周りをチェックしつつ、彼からトレーを受け取った。
「さゆみ先輩発見!!」
「さゆみ先輩、今日の晩御飯、私たちが担当だったんですけど見てください!」
「ごめんさとう、迷惑かなって思ったんだけど、どうしても梟谷の1年たちがさとうのとこに行きたいって言うから」
入り口に近いテーブルで赤葦くんと向かい合って席に着いてすぐ、その声の主たちはやって来た。後輩ふたりと他校の男の子がひとり。普段の練習で、私が担当しているコースの部員たちだ。お皿にはロールキャベツが乗っている。スーちゃん並みに声の大きいふたりだったもんで、後ろからの視線が痛いこと……赤葦くんは表情をピクリとも変えずに、彼女たちを見ていた。
「練習おつかれさま二人とも。これ、私に?」
「はい!せっかくだからさゆみ先輩にも食べて欲しくて」
「あと、航先輩がさゆみ先輩に会えてなくて寂しいって言ってたんで、連れてきました」
「おい!!…さとう、今のは無視していいから。ほら、早く戻んないと片付け終わっちゃうだろ」
「あはは、ありがとー。これ、お皿は明日持っていくから、言っておいてもらえる?感想は朝にでも伝えるね」
元気な返事を返してくれた後輩ふたりと、慌ててる同級生に手を振る。渡されたロールキャベツをひとまずトレーの隣りに置いたら、私の隣りに木兎先輩、赤葦くんの隣りにニヤニヤ顔の音駒の黒尾先輩がやって来た。
「なあなあさとうちゃん、これ俺も食べていい?」
「ロールキャベツですか?全然いいですけど…唐揚げ、おかわりします?」
「いーや違ぇんだ!食べたいだけ!」
「んじゃどうぞ。赤葦くんと黒尾先輩はいりますか?」
「俺はそいつと違ってもらいに来たわけじゃないからいいよ」
「……食べる、ちょうだい」
差し出されたお皿にロールキャベツをひとつ、いやふたつあげちゃおと思って乗せてみたら、無言で食べ始めた赤葦くん。隣りの木兎先輩は熱かったのか、暴れ始めた。その対処に追われていたから、向いでニヤニヤ顔の黒尾先輩と赤葦くんの話なんて全く聞こえてなかった。
***
「小見や木葉たちから聞いては居たんだけどさあ」
「……ロールキャベツ食べますか」
「どーよ今の心境。あれ完全にライバルじゃん」
「どうもこうも……」
「まあ今この状況的に?お前の方が有利なわけだけど、ジャージに他校の名前あったしな。でも色んな口実作れば合宿期間中は会いに来れるわけだし」
「月島だけじゃなくて俺の地雷も踏んでいくつもりですか」
「これは地雷じゃないだろ。いやあ、赤葦も木兎に振り回されてるだけじゃないんだなと。お前ちゃんと青春してんのな」
俺の背中をバンバン叩く黒尾さんへ、精いっぱいの睨みを送るも全部そのにやけ顔に流されてしまう。さっさと戻って食事の続きを再開してくれと願うも、目の前の木兎さんが戻ろうとしない限りこの人も戻らないんだろう。なんでこう、先輩ってのは後輩にちょっかいを出したがるのか。
「なんでもそつなく熟す感じかと思いきや、子供っぽいとこもあるんだと」
「俺も高校二年生なので」
「結構分かりやすいのな。お前、リエーフにも嫉妬心剥き出しじゃん」
「……なんで分かるんですか」
「経験値じゃね」
ニヤリ、そう音が聞こえてきそうな顔をこちらに向けてくる黒尾さんを無視して、残りのロールキャベツを口に含んだ。こんなに味のしないロールキャベツは初めて食べる。さとうの後輩たちへ、ごめんなさい。俺の小さな嫉妬心で、ロールキャベツは半分以上俺が食べました。
「覚悟はとうにしてます」
「へぇ」
「思ったよりチャンスが早く巡って来たって感じです」
「言うじゃん。んじゃあそんな赤葦くんにいい情報をあげようじゃないか」
呆れ顔を見せつつ耳を貸す。さとうはまだ、木兎さんの世話をしていた。