月曜日、夏の香りがしました


月曜日は電車が遅延する確率がめちゃくちゃ高い。今日も今日とて、体調不良の救助とかで乗る電車は10分くらい遅れてる。上司にすみませんってメールしたら、俺は20分の遅延!ごめんな!って返って来た。なんて使えない上司なんだ。
別に定時出社が絶対じゃないフレックスの会社だから、直属の上司が居ないなら遅れてもいっか、と遅延が原因でパンパンの電車を見送って改札へと歩き出した。2駅くらい歩けば、社内の密度は半減するはず。都会の駅の間隔は15分も歩かずに辿り着けるし、なんだったら今日も息抜き用にカフェラテでも買って行こうと思って、目的地へと進む。歩き出せば通りがかりの公園で向日葵が咲いてるのが目に入った。暑くなってきたとは思ってたけど、もしかしなくても夏がやってきてる?7月の頭なのに向日葵って咲くんだ。なんて呑気なことを考えてた。仕事の締め切りでカレンダーはよく目にするけど、数字でしか認識してなくて。そっかあ、だから鉄朗は最近、ガリガリ君を買って帰って来ることが増えてたんだなあ……なんて思い出していた。ここのところ、仕事に追い詰められすぎて、ゆっくりと景色を眺めることもしてなかったや。週末も、鉄朗が居なくなったって事実を反芻するばかりで、何も出来なかったし。……部屋、片づけた方がいいかも。鉄朗、何は持ってったんだろ。

***

「彼氏が家出?」
「家出というか……いや家出なのかな。家だもんな、うんはいそうです」
「適当な答え……てかよくもまあ、そんなに喧嘩するネタがあるよね」
「喧嘩しないんですか?」
「しない訳じゃないけど、あんたたちみたいにしょっちゅうしないよ。若さもあるのかねえ」
「若さ関係あります?単に隠し事とかしたくないだけなんで、言いたいこと言ってるだけなんですけど」
「だからぶつかるんでしょーが。まあ片方が我慢してるって感じじゃないし、上手く成り立ってたんだろうけど今回はそう行かなかった、ってところだね。友だちとか連絡先知らないの?」
「たまたま一人、駅前で会ったんですけど、家出してること知らないっぽくて……他は特に知らないです」
「紹介されたりしなかったの?」
「一緒に呑んだりはしますけど、別に彼が居ないのに連絡取ることもないし、聞いてないです」

色とりどりの野菜の中から、器用に赤と黄色を避けながら、サラダに手をつける。先輩は説教のようなアドバイスを次から次へと話してくれた。けどまあ、あまり参考にはならない。先輩のところとうちとじゃ、だいぶ関係性が違う気がするからだ。
こうやって避けたパプリカ、鉄朗は食べてくれるのに。それくらい食えよって怒りながら。ビタミンAが豊富なんだぞって言いながら。要らない雑学って聞き流してたのに、耳に胼胝ができるくらい聞いてたせいで、覚えちゃったよ。

「出て行ったとき、いつもと違う感じとかしなかった?」
「いや……自分もだいぶ頭にきてたんで、正直そこまで記憶が……」
「最近、不審な行動してたりは?」
「普通だったと思うんですけど」
「話聞く限り、立ち回りが上手い人なんだと思うから隠せそうだもんなあー」
「……先輩、何が言いたいんでしょうか」
「浮気も疑ったら?ってこと。とりあえず今日帰ったら、いつもと違うところ無いか見て回った方がいいよ。あんたが仕事来てる間に荷物まとめてるかも」

口の中に、大嫌いな味が広がった。口に入りきらなかったレタスの間に見えた赤。先輩から聞かされた単語と相まって、余計に不味く感じる。最悪だ。
相変わらずお子さまみたいな舌だなって笑ってくれる鉄朗は、ここに居ない。





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