好き嫌い、消えてなくなれ火曜日
先輩から鉄朗の浮気を疑えと言われた昼休憩のあと、しっかり業務を熟したもののどうやって仕事をして家まで帰って来たのか記憶にない。リビングで化粧も落とさないまま、家中のありとあらゆるものをひっくり返して、代わり映えしない物たちに安堵と、一気に疲れがやってきてそのまま寝落ちた。
次に目が覚めたら、お酒を飲んだ訳でもないのに頭痛がして、悩まず速攻で休みの連絡をした。遅刻はするけど滅多に休んだりしないもんだから、上司からは滅茶苦茶心配されて、案件も落ち着いてるし明日も休んじゃいなとバファリンもびっくりな優しいお言葉をいただいた。とりあえず、化粧は落としたい。寝落ちしたことに気づいたら、顔に何か張り付いてる感じが気持ち悪い。あとは喉が渇いたから水飲んで、服も脱ぎたくて……。なんとか立ち上がって、洗面所へと歩き出した。
昨夜の大捜索の結果、特にこれといって浮気が分かるようなものは見つからなかった。逆もしかりで、無くなっていたものもない。いつもの喧嘩のように、深夜二時ごろに帰って来るのとなんら変わらない。lineはひとまず既読にはなったけど、返信は特になく。Twitterもチラ見したけど、なんも更新されてなかった。
なんとか着替えまで終えたあと、ボーっとした頭で昨夜見つけた大嫌いなものが目に入った。
「……たばこ、」
赤いパッケージングが特徴のそれは、確かマルボロって言うんだっけ。喫煙者である友人が、マルボロを吸う鉄朗にコイツなかなかやべぇと笑っていたから、名前は覚えてる。ハタチより前から吸ってんだろ、なんて言われてた。たばこなんて全部一緒だろって思ってた私にはよく分からなかったけど、そんな話をしたよって教えたら、まあ初心者向けじゃねぇよなって笑ってたっけ。
カパッと蓋を開けてみても、特に匂いはしなくて、思い切って一緒に置いてあったライターも手に取って、火をつけた。
「……かはっ、ぐぇっ……ごほっ、にがぁ……」
思いっきり煙を吸い込んで咳き込む。灰皿の存在を忘れていて、目の前のマグカップにたばこを突っ込んだ。好きだけど、嫌いなもの。この匂いは安心するけど、嫌いだ。
「……寝よ」
起きたら、あのたばこは捨てよう。