「おーつかれさまでーす」
「ありがとうございます」
相変わらず可愛げのない月島にタオルを渡して、体育館のなかを見渡す。潔子さんは既に帰宅していて、いまマネージャーは俺ひとり。何も言わないといつまで経っても自主練を続けるバレー馬鹿もたくさん居るので、最近じゃその尻叩きも俺の仕事のひとつになっている。
「田中、それなーに?」
「月バリ、バレーの雑誌だよ。おら」
「おぉ……メイクとか施してないのに、この映りの良さ。スポーツマンって汗すらも味方にするの?すごくね?」
「葵の着眼点はいつも変だよな。女子と一緒に雑誌読んでる時もそんな感じだろ」
「えっ、葵って女子と雑誌読んだりすんの?」
「えっ、スガさんしないんですか?最近の流行とか分かって面白いですよー。いま、女子高生の間じゃ韓国のアイドルが流行ってるんです。だから中性的な顔がウケるらしいんですよね。俺の時代キタコレ!!」
「いや、葵の時代は随分前から来てると思うけど……」
「でもこの人はなんか、ひとつ前の時代を生きてるね」
「ウシワカな。時代交差すんなよ」
「白鳥沢のウシワカは、全国ピックアップ選手3人の中に入ってんだよ」
「白鳥沢って影山が落ちた学校!!!」
ギャーギャー騒いでるみんなを余所に、田中の雑誌をもう一度見やる。ページをいくつかめくると東京の学校もあって、井闥山学園の名前が並んでた。あー、このサクサって名前聞いたことある気がする。京治の試合観に行ったときに何度か会場で名前を聞いたんだ。あとビジュアルもまあまあ印象的で……なんかさ、マスコットキャラクターみたいで可愛くない?サクサって。そんなん言ったら京治くんに大爆笑されたんだけどね。また実物が見たいなあ、サクサくん!
「って、及川さん載ってないじゃん」
「今回はスパイカーがメインって感じですかね」
「うわあ…何日か前に、『俺きっと載ってると思うから見てね!!』ってメッセ来てたの、たぶん月バリのことだよね?載ってないってことはきっと今頃拗ねてるね?今夜、電源切っておこ」
***
「ね、葵」
「?どうかしました?」
「今日ね、あれ、出そうと思うの」
「あれ……ああ!あれですか!間に合ったんですね〜!」
「うん。だから、手伝って」
「もちろんです!みんな喜ぶんだろうなあ〜」
インターハイ予選前日。今日も今日とて変わらぬ部活。ネットを片づけてステージ近くに移動した俺の近くに、潔子さんがやって来た。潔子さんはここのところ、早く部活を切り上げて帰宅している。というのは部員たちの認識で、俺は帰っているのではないことを知っている。空き教室へ移動して、最終下校ギリギリまで、みんなへの贈り物の準備をしてるのだ。贈り物とは、応援団幕のことで、倉庫の掃除をしていた時に見つけたそうな。クリーニングに出して、ほつれを直す作業が必要だったんだけど、潔子さんがこれはどうしてもひとりでやり遂げたいとおっしゃるので、俺はその行動が不審がられないように上手く日常を過ごすことに徹底した。だからたぶん、誰も気づいていないはず。
「じゃあこれで、」
「ちょっと待って!もうひとついいかな?!」
武ちゃんの清水さんから!の一言に、部員全員の視線がばっと潔子さんに集まる。頬をほんのり赤く染めながら、潔子さんは俺に指示を出し、梯子からキャットウォークへと上がっていく。お前たち、しっかりと潔子さんからの激励を受け取れよ!!
「せーのっ!」
バサッと広がる黒の横断幕。初めて目にする烏野高校の応援団幕にみんな目を見開いてる。こういうのって、その学校の精神論とかモットーを掲げるんだろうけど、この”飛べ”っていうのは、流石烏野って感じがしていい。雑食のカラスは、飛ぶためにいかなるものも吸収し、学習し、そして大きく羽ばたく。真っ黒なその羽根を、これでもかというほどコートいっぱいに広げて大空へと。
「が……」
「?(が……?)」
「……がんばれ」
泣き出す者、泣き出す者、泣き出す者。泣き出す人しかいない部員たちを眺めながら、上から大爆笑してやった。潔子さんの激励を受け取ったからには、絶対勝てよ!!そんな思いを込めて。
***
仙台市体育館なんて初めて来たな。そんな暢気なことを考えてた数十分前の俺を殴ってやりたい。
公式戦はベンチに入れるのはマネージャーひとりだから、俺はいま横断幕がある観客席でひとり寂しく烏野を応援している。こんな初戦から応援団が居る学校はなんなの?強豪?というか部員数が違いすぎるよな。ベンチに入りきれないメンバーがこっち側にいんのか。失礼いたしました。
「たーなかぁー!!ナイス―!!!」
「らあぁぁああ!見たか葵!!!」
「こら!うるさい!怒られるだろ!!」
コートから観客席に叫ぶとかやめろよ。笑いを堪えるのに必死になりながら、審判に怒られてる大地さんと田中を見やる。写真撮ってやりてぇ。
「みーっけた。ねぇなんでおれのメッセ、シカトすんの?」
「すみません、いま試合中なんで他校の方はお静かに、」
「むっかつく!なにコイツ!!」
「金田一くん、だよね?先輩連れて行ってくれる?」
「……先輩、俺の名前知ってたんすね」
「印象的だったからね!じっちゃんの名に懸けて!!」
「おれの存在までシカトしないで!泣いちゃうぞ!!」
「キャー及川さんの泣き顔見てみたーい!(裏声)」
こちとら大事な第一戦だと言うのに厄介なのに捕まってしまった。岩泉さん、早く回収してくれませんかね。あの月バリに載ってなかった事件は、やはり及川さんにとって大ごとだったみたいで、死ぬほど愚痴メッセが届いていた。俺はひたすら、最近トビオくんが可愛くて仕方ないんですって返事しておいたけど。
「メンバー増えてんじゃねぇか」
「あ、岩泉さんだ!ちーっす!及川さん回収してください!」
「おー。こんな短期間で部員増えんのか?」
「色々事情があるんですようちにも。ほらほら、大地さんがこっち見てる気がするから自分たちのチームのとこ行ってください!!」
シッシ!と失礼ではあるけど追い払うようにすれば、まっ頑張れよって岩泉さんに軽く頭を撫でられてしまった。どうしよう、ときめきトゥナイト今日のターゲットは君に決めたぜベイベーって感じで、キュンとしちゃったんだけど。
「及川さん、岩泉さんを俺にください!!」
「はあ?!あげるわけないでしょ!!!てかお前が貰う側かよ!!葵は貰われる側だから!!」
20200421