こんにちは、先日バレー部に入部した谷地仁花です。今日も今日とて、先輩方に囲まれながらできる仕事をひとつでも増やそうと必死に奮闘しています。あ、そうそう。入部してから知ったのですが、烏野の男子バレーボール部にはマネージャーが既にふたりおりまして、立ち振る舞いが美しすぎる清水先輩と、一年の間でも有名な如月葵先輩。顔面偏差値が高すぎて、いつどこで後ろから刺されてしまうか、日々怯えながら暮らしています。
「やーっちゃん!」
「ふぁいぃぃ!!」
「そんな怯えないでよ〜そっち終わった?」
「まっまだです、あとふたつ……」
「おっけー!んじゃ一個貸して?ふたりでやったら一回で終わるね!」
如月先輩は、私が出来損ないであることを分かってくださってるので、こうして仕事をよく分担してくれる。しかも、私があまり気づかないようにフォローの言葉を添えて。その眩しい笑顔に何人の女性があなたに落ちたかご存知ですかぁ!!と叫びたい気持ちをグッと堪える。同級生たちにはめちゃめちゃ羨ましがられるんだけど、私は別に、先輩にお近づきになりたくてはじめたわけじゃないので。決して。断じて。
「東京遠征、如月先輩も楽しみですか?」
「うん。実は俺ね、小学生の頃まで東京に居たの!」
「え!初耳です!!」
「だからねー、向こうに帰れるの嬉しいんだ。幼なじみも向こうに居るからね、会えるかわかんないけど、会えたら嬉しいな」
「幼なじみさんは、同い年ですか?」
「そー!しかもバレー部!俺が辛うじて簡単なルールだけは理解してたのは、京治くんのおかげだなあ」
「その方が梟谷グループのどこかに居たら、会えたのに残念ですね……」
「……ん?梟谷?」
如月先輩の手が止まる。ゆっくりこちらを向いて、もう一度、その名前を繰り返す。え、私なんか間違ったこと言ったかな、いやでもコーチも先生も”梟谷グループ”って言ってたから間違ってないと思う、うん。それに昨日、清水先輩から貰った合宿の資料に書いてあったよね、梟谷って。
「俺はもしかして、もしかしなくてだけど、超重要な資料をちゃんと読んでいないのでは」
「えーっと……昨日、清水先輩がくれた紙って」
「あとで読もうと思って、まだカバンの中」
「そこに、来る学校の名前がありました。のでっ、間違ってないはず……です……」
語尾がどんどん沈んでいく。対して如月先輩はどんどんお顔がキラキラしてきた。ぐぅ、まっ、眩しい……!!雑草が浴びていいものではないよォ!!!
「京治くんに会える!!」
「ほぁ?け、けいじ?」
「さっき言った幼なじみ!梟谷のバレー部なんだよ、しかも副キャプテン!二年なのに!凄いでしょ!!」
「なんと!!そうだったんですね?!すごい!すごいです先輩!!」
眩しすぎたけれど、それ以上に先輩の喜ぶ姿はこちらまで嬉しくしてしまうものなので、一緒になって騒いだ。ドリンク持ってくるのが遅いってそのあと怒られたけど。
***
「ふんふふ〜ん、バボチャンと一緒にバボバボ〜ん」
「……なにあれ」
「今度の合宿に幼なじみが居ることが分かって、上機嫌の如月です」
「バボバボってなんだよ……」
「噂の幼なじみいんのか。やべーなそれ」
「知ってんの?田中」
「おー。アイツからよく聞くし、なんなら毎日連絡取ってるらしい。確かセッター」
「セッター…葵さんの幼なじみが、セッター……」
「だから葵、セッターのプレーについては聞きたがってたのかな。よく『今のはなんて言うんですか!』って試合中聞いてきたし」
「料理があんだけうめぇのも、その幼なじみが食べてくれるからつってて、ああコイツ、だから彼女出来ねえんだなって思ってたんすよ」
「セッター……セッター…」
「ひぃいい!!かっ影山!おれはなにもしてない!!」
ルンルン気分でモップ掛けをしていると、何やら向こうで寄ってたかって楽しそうなことをしている集団が見える。だがしかし、いまの俺には関係ない。この練習が終わったらすぐ、京治くんに電話をするのだから。へっへへ〜夏休みはスケジュール的に会えなそうよって話したばっかりだったのに、こんなに早く!それが覆るなんて!!うっれしいな〜。
「あ、黙ってて当日びっくりサプライズ!ってのもいいかな?」
「葵さん!!!その、あの、おっ、幼なじみのセッターってどんな人なんですか!!!」
モップをマイクにしながら掃除、もとい踊っていた俺の元へ、いまにも頭から湯気がポッポー!と吹き出しそうな影山がやって来た。影山はまくし立てすぎて、発言の後半があまり聞こえなかったぞ。
「幼なじみ?京治のこと?」
「くっ……名前呼びですか…」
「京治くんはねぇ、背が高くて、ボーっとしてる顔だけど色々考えてて、ご飯が大好きで、でもご飯に負けないくらいバレーボールが好き!なやつ!いやバレーボールが大好きなのは高校生になってからかな?あとね、俺の作るご飯が大好きなんだって!キャー照れるーー!!」
「おおおお俺も!俺だって!!葵さんの作ったご飯もバレーボールも!その、す、すっ、すす、」
「そんでもって頭がいいんだ。勉強でわかんないとこは京治によく聞いている」
「ぐはあっ!!!」
「か、影山が死んだああああ!!」
「生きろ影山!!!お前はバレーにすべてを持ってかれただけなんだ!!」
「いや絶望的じゃん」
影山に駆け寄るみんなを不思議な顔で見ながら、潔子さんに呼ばれたのでその場を後にした。やっぱり、京治がびっくりする声が聴きたいから、部活終わったら電話しよーっと。
20200425