「よくやった田中!!素晴らしい!!マーベラス!」
「誰だよ如月、喜びすぎて発言が頭おかしいぞ」
「ッシャァァアア!!待ってろ東京!!待ってろシティボーイ!!」
テスト返却日、田中は全教科赤点を免れた。縁下から田中をメインにフォローするよう言われてたので、俺自身もこれで一安心。なんだかんだ田中に教えてたおかげで俺も今回、全体的に点数いいしな。俺はそんなに頭良くないんだけど、人生二回目ってのと、前世より時間ができたことで勉強に集中する時間が増えた。それから京治の力ですね。遠隔でも勉強を上手に教えてくれる人が居ることはいいことです。まあ、京治くんは既に俺がどんな理由で躓くのかなんてことまで分かっているから、俺仕様になってるんだと思う、教え方が。
「これで安心して東京に行けるなあ〜西谷は大丈夫かなあ」
「縁下がついてんだから大丈夫、と思いたい。俺も今の今まで不安しかなかった」
「せっかく頑張ったんだから、このまま勉強癖つけろよ!」
答案用紙をカバンに突っ込んで、ホームルームを待つ。明日からいよいよ東京だ。ひとまず週末だけなんだけど、はりきりすぎた俺は、再来週から始まる夏休み中の遠征分も荷造りができている。大爆笑である。あとは京治へのお土産を買うだけ。
意気揚々と京治くんへ『夏休みも会えるよ!』って電話したら、知ってるよって返された。京治くんは副部長だし、とっくに先生から聞かされていたらしい。びっくりさせたかったのに、なんて膨れたらサプライズなんかしなくても、会えるんだからいいじゃない。とか言われた。やめてよ胸キュン台詞。かれこれ何年も彼女なんて居ないのよ。って、俺が胸キュンさせられてたら、彼女が居ない理由と繋がらんな?胸キュンって女の子が主にするもんじゃない?
「ねぇ山口」
「ええ……べ、別に男の人でもときめいていいんじゃないですか…?」
「そう?そう思っちゃう?ならいいのかな」
時は過ぎ合宿前日の放課後。東京へは深夜に出発するため、今日の部活はミーティングのみで終了だ。まさかまさかで赤点を取った影山と日向だけは、少し練習をしていくそうだけど。解答欄ズレとか、絶対やりたくねぇ悪夢やんけ……。
「山口、嶋田さんとこ行ってるんだって?」
「へっ、知ってるんですか?」
「嶋田マートにはお世話になってるからね〜土曜に買い物行ったら、忠が〜って話してくれたよ。頑張ってるな!」
「俺なんて全然……でも、このままなのはもっと嫌で」
「うんうん。現状を打開できる人って、強い人ができることだから。大丈夫、山口なら変われるよ」
んま、ホームランしかサーブで打てない俺が言っても説得力ないけど!!げらげらと笑いながら、ミーティング終わりに打たされたサーブを思い出す。もう帰るだけなんだし、つって制服のまま、どれくらいバレーができないのか見せてみろ!とか言って西谷にバレーボールを渡されたんだ。半ばやけくそに、アンダーで打ったボールは天高く舞い、キャットウォークへとインした。そのあとはパスとかアタックもやってみろって言われたけど、日向よりも酷い仕打ちに影山はオロオロしだすし、ネットから手が出ない俺を月島は笑ってるし……先輩としての威厳が一瞬にして削がれたのである。
「でも、すごく自信がつきます。先輩の言葉」
「ほんと?山口はおだて上手だねぇ」
「ほっ、ほんとに思ってるんですよ!?」
「へへへ、ありがと。合宿中に山口の好きな食べ物が出たら、分けてあげる」
***
「つっ、いっ、たっあーーー!」
バスから降り、バキバキ言ってる背中をグッと伸ばす。選手たちはこのまま練習で大丈夫なんだろうか。俺がただ運動不足なだけかなあ。
お迎えに来てくれた音駒メンバーについて行くと、マネージャーはあっちとキャプテンさんに言われた。田中と仲良くなってた虎くんが、やっちゃんがいることに涙していたのはスルーしていく方向で。田中が勧誘したわけじゃねぇだろこれは潔子さんの力だっつーの!
「よろしくお願いしまーす」
「あ!噂の葵くんが来たよ!!」
他校のマネは見事に女子、女子、女子!西谷がここに居たら仕事にならんな。手を振って来る先輩は、なんで俺を知ってるんだろうか。横に立つ潔子さんを見やると、潔子さんも知り合い?なんて返してくる。いや、知りません。こんな高校生なのにちょっとセクシーなお姉さんと元気系姉御肌って感じの先輩!!!
「赤葦がさ、たまーにスマホから顔を逸らさない時があって〜」
「一度、いたずらで取り上げてみたら、葵ってあったから、誰って聞いたことがあってさ」
「幼なじみって言うから〜、あの赤葦が毎日連絡取るような子、どんな子なのかなって、気になってて」
「なるほど……京治くん、俺の話してくれたんですか……!」
嬉しい!!ちょっと跳ねちゃう!やっちゃんへ、俺嬉しくて踊れそう!って笑ったら、先輩今までで一番いい笑顔してるっす!!とか言われた。まじか!京治が絡んでしまうと、どーもダメね。我を忘れてしまう。
「基本的には自分の学校のフォローって感じなんだけど、音駒はマネが居ないから分担で。あとご飯は昼と夜は食堂があるから、配膳だけ。朝は私たちで作るから、ちょっと早起きだけどよろしくね」
「しゃち!!」
「やっちゃん、はい、ね」
「はっ、はいぃ!」
「いいなあ後輩、私も欲しかった」
マネちゃんずのふふふなお花畑で、俺はこの二日間と、再来週の一週間過ごすのか。男子に恨まれそう。俺は及川さんみたいになりたくないんですけど…。
「あらあら、大丈夫?研磨くんや」
「無理……疲れた……」
「みんなよくやるよな、ほれほれ水分補給して」
「ん……」
「あ!!葵さん!!ちーっす!」
「こんにちは犬岡。相変わらず大きいなあ」
「っす。日向は補習って聞いたんですけど……」
「うん……結構頑張ってたんだけどねぇ……でも時期に、来るはずだから安心して」
俺の返事に嬉しくなったらしい犬岡の表情があまりにも可愛くて、ちょいちょいと手で招いて犬岡に少々しゃがんでもらう。ツンツンした髪をわしゃわしゃ〜って撫でてやれば、うわあ!と驚きながらもぐりぐりしてくれた。犬岡、君は猫ではなくワンコだったのか?音駒なのに?
「ねぇ、葵」
「ん?」
「赤葦と知り合い?」
研磨くんに言われて、指さされた方を見やれば、無表情の京治がこちらをジッと見ていた。やだ!京治くん発見!!犬岡の肩を叩いてもういいぞ、と合図したらばダッシュで京治くんのもとへ。バッと腕を広げて抱き着こうとしたら、足元に転がって来たボールに乗っかって転んだ。俺はどんだけボールに嫌われてんだ、って思うのと、ポスっと何かに抱きかかえられるまでの時間はほんの数秒。
「はしゃぎすぎ。体育館で走ったら危ないって、小学生の頃言わなかった?」
「うぉおお……ありがと京治。床にチューしちゃうとこだった……」
王子さまかよってくらいスマートに、倒れ込んだ俺を抱きとめた京治。この感じが久しくて、思わずその背に腕を回す。京治の匂いだーなんてまたはしゃぐもんだから、頭を叩かれた。離れれば、周りからの冷ややかな視線。これは、さっそくやらかした感じか。
「どうしよう京治、恥ずかしくて沸騰しそう」
「しちゃえばいいんじゃない?俺はただの役得」
「え、その顔でその発言はアウトすぎない?京治、かっこいいんだから発言に気を付けてって言ってるじゃん」
「そっくりそのままお返しします」
***
赤葦side
「にしても、赤葦の幼なじみがあのマネだったとは」
「なんですかその言い方」
「いいや?俺はこの間逃げられたもんで、根に持ってるってだけ」
「……やめてくださいね、葵に手ぇ出すの」
「いや言い方。いかにもじゃん」
「女子にモテるだけじゃないんで……」
事実なのだから仕方ない。手にしてるボールに込める力が自然と強くなる。葵は昔っから、誰にでも愛想が良くて、みんなから好かれるタイプで、クラスの真ん中にいるような奴。決して態度が横柄になることはないし、教室の隅っこにいるような奴にだって話しかけに行く。同じクラスになったんだから、みんな友だちにならないと。それが葵の持論。俺には到底理解できっこないけど、葵が楽しそうだからそれでいいかと特に気にしてなかった。彼が、宮城へ行くまでは。
中学に入ってから、葵の居ない学校生活は単調であまり記憶にない。夏休みや冬休みといった、長期休暇は葵が帰って来るから覚えてる。そのくらい、幼いころから一緒にいた葵は、俺の中を占める割合は大きい。それは、葵の中でも同じだと、思いたい。
「あれか、赤葦が疲れると出てくる『葵の手料理が食べたい』の葵か!!」
「……よく覚えてましたね木兎さん」
「おう!赤葦のしょぼくれモードは珍しいからな!」
「別にしょぼくれてません」
「ふーん、手料理かあ…確かに、あれは料理上手とみた」
なんか知ってるんですか。研磨がさ、この間の練習試合んときにパウンドケーキ貰ってて。うまそうだから一口貰ったわけよ。
深いため息をつく。葵はまたそうやって、男女問わず食べ物で誑かしてるのか。中学の料理部だって、気づいたらバレー部に差し入れするための部活動なんかになってて、岩泉さんとやらがカッコいいんだと散々聞かされて、気が気でなかったのに。今年のバレンタインの貰った量を思い出しても、葵が相変わらず人気者なようだし。頭が痛い。
「そんなに大事?赤葦が彼女作らないくらい?」
「……そうですね。そういうことにしておいてください」
「え!赤葦に彼女?!」
「いませんよ。木兎さんのお世話で精一杯です」
「んま、赤葦がそう言うならそういうことにしておくわ」
面白いおもちゃを見つけたような顔をしてる黒尾さんはシカトして、俺は葵が居るであろう食堂へと歩き出した。もちろん、早歩きで。
20200425