「ほいっ、おかかのおにぎり」
「ん、」
「赤葦がこんなに早く起きてくるなんて珍しーって思ったけど、そういうことか〜」
「普段もっと遅いんですか?」
「すっごい遅いわけじゃないけど、こんなに早いことはないかな。起きても食堂には来なくない?」
「……お腹が空いたので」
「うっそつけー、俺のおにぎりが食べたかったんだろ〜?葵特製のおかかおにぎりを!!」
「あんまりいじめると後が怖いからね、うちらはあっち行ってよ〜」
合宿二日目。今日はもう帰る日になるので、練習は昼過ぎには終わる予定だ。他校の皆さんはもう少しやってるのかな。俺たちはまた、バスで移動だから、早めに出発。梟谷の先輩方にいじられてる京治は新鮮で、学校での京治について色々聞いてしまった。バレてちょっと不機嫌です、京治くん。
「一度来てみたかったんだよね、梟谷」
「……そうなの?」
「京治が通う学校でしょ?引っ越さなきゃ、一緒のとこ通ってたのかなーとか思ったりしてさ。学校の京治とか超気になる」
「別に何も変わらないよ」
「そーんなことはない!まさか京治が部活で末っ子やってるなんて知らなかったもん!」
「いや一年居るけど……」
「あんなにノリのいい先輩方に囲まれているなんて!来週は、先輩方にも手土産用意しなきゃだね」
「いや誰目線なの」
「幼なじみ目線。京治くんが常々お世話になってますって!」
「いいよそんなことしなくて……それより、目玉焼きいいの」
「んー、おっ、タイミングばっちり!さすがだな京治!」
フライパンからお皿に移して、もう一度油を敷く。ひたすらこれを繰り返しながら京治と話しているわけだけど、待ってる時間に別のことをする普段の朝食と訳が違うから、いい暇つぶしになっていい。夏休み中の朝食は、前日に少し仕込みとかしとかないと間に合わなくなりそうだな。連日の早起きはなんだかんだ身体に来ますからね。
「ひとり暮らし、寂しくないの」
「今更それ聞く?毎日連絡してるじゃんか」
「この間風邪ひいたし」
「あれはねーうん、メンタル的なものもあったと思うけど、一番は兄ちゃんのせいなんで」
「えっ、来希さん帰ってきてたの」
「そーなんだよ。さっちゃんが旅行行ったからって」
「あー……そういえば行ってた気がする、フランス行くって言ってた」
「さっちゃん居ないとご飯食べれないのなんなの?俺の兄貴はコンビニ弁当が食べれないの?」
「別に姉さんも料理上手じゃないと思うけど。葵が一番でしょ」
「いくらなんでもお姉さんに失礼すぎます。よっと、次でラストー」
終わったら暇?なんて聞いてくるから、やっちゃんの手伝いするつもりだよって返したら、京治の眉間に皺が寄った。どんだけ俺と一緒に居たいんだよ。また再来週も会えるってのに。
「葵が一番仲いいのって、坊主の田中って奴だよね?」
「そうだけど?」
「あとで挨拶しとく。あと葵のことどう思ってるか聞く」
「はあ?京治くんいつもそれやるけど何?てか田中は潔子さん一筋だから心配しなくていいよ?」
そう、ならいいか。ケロッと声色を変えて、最後の一口になったおにぎりをパクリと口に放り投げた。えーなんなの俺の幼なじみは。俺の交友関係、そんなに心配ですか。
「それなら俺もするよ?特にボクトさんにはね、お世話になってるみたいだし」
「ダメ、絶対ダメ。喋ったら一週間、いや三日連絡しない」
「妥協してんじゃん!耐えろよ!!」
***
「日向、さっきのでどっか捻ったりしてない?腰とか」
「大丈夫です!問題ありません!」
「ならいいけどさ、旭さん体格いいんだから、立ち向かっちゃダメだぞ?」
念のため、立ったままだけど筋肉の張りとかを確認する。どっかが痛んだりしたら、そこを庇って立ってたりするから、変に筋肉が張ってたりするけど、うん、特に大丈夫そう。背中をポンポンと叩いて、もういいよと合図を送る。
烏野はこの二日間、どの学校にも連敗中。みんなが、何かしなければ勝てない、けれどもどうしたらいいのか分からない。といった雰囲気の中、日向が一番にその先へと進んだ。その発言が、影山との一時的な亀裂にいまなってしまっているわけだけど、やっぱり日向はいつだってキラキラと前へ前へ進める子なんだと実感した。
「落ち込むなよ日向」
「へっ、」
「みんなここに勝ちに来たわけじゃない。練習しに来たんだから。お前の判断は何も、間違ってないよ」
「〜〜〜葵さん!!!」
「うおっ、ちょっ、日向〜倒れちゃうよ〜」
オレンジのふさふさが首元でぐりぐりするもんだから、可愛くて仕方ない。再度背中を叩けば、少し離れてお礼を言ってきた。ワンコなのかな?俺にはお耳と尻尾が見えるよ。
「葵、帰り道に食べるおにぎり、作りに行くの手伝って」
「はーい!こっちはいいんですか?」
「他校のみんなが見てくれるって。私たちも数はそんな無いし、終わったら戻ろ」
「シャッス!!」
「やっちゃんは相変わらず返事が面白いな〜」
潔子さんの後ろをやっちゃんと、流れ弾に気を付けながら歩く。ひゃっは〜ボクトさんのスパイクめっちゃ重い音した!怖い!あんなの当たったら気絶しちゃう!
「如月先輩、気を付けてくださいね、いつどこから暗殺者が狙ってくるか……」
「暗殺?!やっちゃん物騒だね?」
「如月先輩の命は私がお守りしますからね!!ボールに躓いてそのお顔に傷がついたら、全校生徒から恨みを買ってしまう……」
「怪我するのは俺のせいじゃん?やっちゃんのせいじゃないよ?」
「何が何でもこの戦場を、無傷で逃げ出します!!」
俺の後輩は、脳内がお花畑ではなくて物騒な世界で出来ている様子。やっちゃん、こんなに可愛らしい子なのに、発言も結構ヤバいんだよな。日向と仲良くできるあたりで気づくべきだったか。いまも忍者の如く、俺の周りをカバディみたいに囲いながら歩いてる。普通、俺がそれをするんじゃない?まあ面白いので守られます。可愛い後輩です。
***
「影山、ほら、これで顔拭いて」
「……っス」
「手は痛くない?腕とかさ」
「……」
「言い分とかさ、なんでこんなことしたーとかは今度聞くから、いまはひとまず手を出しちゃったこと、反省してね」
別に殴り合いはいいんだけどさ、痛いでしょ。受けた方も、殴った方も。スポーツマンなんだから、そんな痛みを味わっちゃダメだよ。
優しく、けれど説教じみた言い方で、無言の影山に言い聞かせる。
宮城に戻って、田中と部室の片づけをしながらグダグダして、そろそろ帰るか〜ってしてた矢先にやっちゃんが泣きながらやってきた。日向と影山が喧嘩してて、止めて欲しいって。あのやっちゃんが泣きながら助けを求めてくるってなに!?大慌てで田中と走って体育館へ行けば、取っ組み合いをしてる二人の姿が。体育館の鍵は田中が締めてくれることになり、日向はやっちゃんが、影山は俺が連れ帰ることになる。
「…葵さんも、日向が正しいと思いますか」
宮城の夏は、東京と違って心地いい風がダイレクトにやってくる。影山のサラサラな髪が、小さく揺れる。その瞳も、まるで孤独であるかのように、微かに揺れていた。
「何が正解かはわかんないけど、やらない後悔よりやる後悔を選ぶかな」
「たとえ、成功に繋がらなくても?」
「失敗だったとしてもそれは糧になるじゃん。何もできないより、やれることがそもそも幸せなんだよトビオくん。……当たり前は、永遠じゃないんだ」
街灯の少ない通り道、上を見上げれば東京じゃ全然見れなかった星々がこれでもかというほど、キラキラ、キラキラと輝いている。俺はあんな風に、キラキラと輝けていたんだろうか。俺に会いに来てくれることを生き甲斐だと、そう言ってくれたファンのみんなは今、どうしてるんだろう。
もっと生きたかった。あの大きな会場でライブをするという夢、それを叶えるためにみんなで必死に頑張ってたのに、呆気なく俺の終わりはやってきた。こんなことなら、もっとみんなにありがとうと感謝を伝えていたかった。メンバーにも、ふざけた愛じゃなくて、真剣に、真心込めてありがとうを伝えていたかった。それはもう、叶わないんだ。
「トビオくんはまだ、間に合うでしょ。日向がいれば、トビオくんだって最強なんだから」
20200427
***メモ***
・如月来希
葵の兄/元ヤン/弟を可愛がりたいんだけど可愛がり方が変
彼女に勝てない/嫌われたくないから東京ではバイクは乗ってない
・さっちゃん(さゆみ)
赤葦の姉/来希と同い年/来希の彼女
つまるところ、兄姉が付き合ってる。