『ちょっと、お宅の一年の礼儀どーなってんの?』
「えっ、いきなり電話かけてきたと思ったらなんですか?クレーム?お断りなんですけど」
『トビオだよ!お願いしますもまともに言えないのかよアイツ!!』
「何故にそれで俺が怒られなきゃならんのだ……」
合宿で溜まった洗濯物を干し終えて、今日はもう頑張らん、夕飯はカップ麺にしてやる!!なんて意気込んだところにかかってきた電話。発信源の名前を見て、出るのやめよっかなって思ったけど、この人の場合は出ない方が面倒なので出ました。褒めてあげて欲しい。お腹空いたのでスピーカーにしたまま、お湯を沸かし始める。
「トビオくん、及川さんとこに行ったんですか?」
『たまたま会っただけ。俺に会いに来るとか無理!女の子限定です!』
「じゃあ俺に電話してくるのも遠慮してください〜あー、京治くんへのメッセまだ返してないのに……」
『相変わらず幼なじみに依存してんの?気を付けなよ?離れられなくなるよ?』
「あなただけには言われたくないですね!!岩泉さんとか岩泉さんとか!!」
『俺と岩ちゃんになろうだなんて百万年早いね』
「あ、もう切っていいですか?ご飯の時間なんで!じゃあね及川さん!またね!」
電話の向こうであっ、えっ、ちょっ、とか言ってるけどムシムシ。丁度良くやかんが沸騰したので、カップ麺にお湯を注ぎ、ソファへと戻る。テレビでも付けようっかな。部活が全くないのなんて久しぶりで、こーんなに長く家にのんびり居るのも久しぶり。さっきまでせわしなく動いてたから気にもならなかったけど、俺の毎日ってこんなに静かだったんだなあ。
「ひとり暮らし歴は長いんだけどな」
高校を出てすぐ、都内近郊のやっすいアパートへ引っ越して、怒涛な毎日を過ごして。換算するともうだいぶおじいちゃんなのに、精神的な成長が見られないのは順応性が高いのか、それとも単に前世の記憶があるってだけなのか。俺的には立派な転生なんですけどね。
時間になったカップラーメンの蓋を剝がして、あっつあつのうちにいただく。何回か空気をあてて冷ましてる間に、机に適当に置いてた紙が視界に入った。そーだそーだ、忘れてたよ。
「俺の進路……俺って何になるの?サラリーマン?何系?業界とかさっぱりだ……」
***
「ささやかですがどうぞ貰ってください!」
「ええっ何突然、烏野のマネだよね?」
「はい!如月葵と申します!以後お見知りおきを!!」
「烏野の部屋が布団入りきらないらしくて、こっちで寝ることになりました」
「俺は無理矢理隅っこで寝るからいいって言ったんですけど……」
「マネージャーも大事な戦力って先輩たち言ってましたよね。それは葵も同じかと」
「やけに食い気味だな赤葦……」
「葵、葵!お前が葵!ハジメマシテだな!!」
「もしや噂のボクトさんですか?」
この部屋で一番テンションの高いボクトさんがやって来て、いきなりのハイタッチを求められ精一杯背伸びして答えた。ひゃっはーテンションたけぇ楽しい!!一週間ほどお世話になる梟谷の先輩は、やかましい系か?寝るときは静かにしろよーなんていじってくれてさらに楽しい。京治くんはと言うと、俺の荷物をちゃっかり運んでくれていた。でましたスパダリ。さり気なく歩道を歩いてくれる彼氏に気づいちゃった気分。味わったことないけど。
「俺さっき知ったんですけど、ボクトさんって木に兎さんで木兎なんですね……可愛い、フクロウなのに」
「?オレかわいい?」
「お前がじゃねーよ!つかさっき渡されたやつ、宮城名物ばっかじゃん」
「京治くんがお世話になっているので!お礼をしなければと思いまして!!」
「あー、烏野のマネって赤葦の幼なじみなんだっけ」
「むしろこっちが木兎の世話してもらって助かってる、って感じだけどな」
「なあ葵!!葵はバレーやんねぇの?」
「やりませんよ!スポーツは何一つやりません!!」
梟谷のメンバーにご挨拶をして部屋を出る。俺はまだ眠くないし、明日の朝飯の準備が先だ。今日から始まった合宿が実りあるものとなるよう、少しでもみんなに精をつけてもらわないとね。困るからね。だってだって、行くって言ったし、大地さん。春高に。
「あれ?やっちゃんなんでこんなとこに?マネたちみんな部屋じゃないの?」
「如月先輩!私は今の今まで、影山くんの自主練に付き合ってました!」
「ボール出しか!えらいな〜」
食堂に向かう途中、廊下の向こう側から歩いてくるやっちゃんを発見。飯が終わった後も練習しているらしい後輩を労ってやろうと、頭をぐりぐり撫でまわしたら、縮む〜と泣かれた。ごめんやっちゃん、君も身長低いの気にしてたんだね。気を付けて戻るよう言って、後ろ姿を見送れば、また後ろから可愛い後輩がやって来た。眉間に皺をたくさん寄せて。十代にしてそんなとこに皺つくっちゃダメでしょ、あと残っちゃうよ。
「こらっ、トビオくん!かっこいいお顔が台無しだよ」
「葵さん?もう風呂行ったんじゃ……?」
「部屋の移動とかあってね〜時間過ぎちゃったから最後に入ろうと思って。一年はそろそろでしょ?」
「っす。てか移動って?」
ストイック一年生に事の経緯を話してやる。一年の風呂の間に明日の朝飯の準備しに行くんだよ〜ってとこまで話して、バイバイしようとしたら右肩をギュッと掴まれた。え、なにごと?
「どーしたの?」
「あ、っと、……」
「分かった、朝ごはんのリクエストかな?トビオくん、食べるの好きだもんね!メインディッシュを変えたりはできないけど、ゆで卵作るくらいならできるよ?半熟かな?」
前回のGW合宿のことがあるから、またリクエストがあるのかなと思って尋ねてみたら返って来た返事はか細くて、俺は何か間違えてしまっただろうか。聞き返そうと思ったけど、おやすみなさい!!とドでかい声で言われてしまったので強制終了となった。なになに、なんだったの?後輩とのコミュニケーションってこんなに難しいの?わからん。
「お前があっち行けば良かったじゃねぇか……」
「んな?!そんなら影山が行けよ!!」
「お前らそんなに葵と一緒が良かったのかよ〜まあ俺も寂しいけどさ〜」
「ほらほら、さっさと寝ろよー。明日も朝早いんだからな」
20200502