スキの代わりにラブ注入

季節は巡り、通学路の並木道が黄色一色になった頃。来る文化祭に向けて、各クラスが準備に取り掛かっていた。俺たちのクラスは脱出ゲームなるものをやるらしい。一年は展示しかできないから、被りやすいんだとか。これ田中情報。お化け屋敷って案が最有力候補だったんだけど、両隣のクラスもお化け屋敷らしいって情報が入ってきて、こっちになった。

「如月は客引き決定」
「女子からも何人かちょーだい!男女共に収益欲しい!」
「学年で一番客が入ったら、食堂からアイスが支給されるらしい!ぜってぇー勝ちたい!」
「物語考えるの得意な人居たら積極的に制作サイドに来て!んで頭がないやつは働け!」
「俺の顔見て言うんじゃねぇ!!」
「いや、田中のためのセリフだろ」
テーマと中身を詰めていくらしく、選ばれし精鋭たちが教卓に集まる。田中の件で世話になった茶道部の伊藤さんも居て、やっぱり文化部は頭いいんだなーって思った。まあ一学期の期末テスト、めちゃくちゃ点数良かったらしいし。部活は関係ないかもしれないけど。
俺はというと、とりあえず客引き要員らしくって、衣装担当になった女子がキラキラした目で『アタシの趣味全開で行くね!』なんて言われた。んまあこちとら伊達に地下アイドルしてませんよ。ハロウィン、クリスマスに限らずいろんなもん着ましたからね。どんとこいですわ。

「なー如月、いっちょ頼みたいことあんだけど」
「おん?」
「ちょっとさ、軽音部の助っ人してくんね?」
「……助っ人?」
助っ人、すけっと、いわばヘルプ?言っている言葉の意味は分かるんだけど理解ができないというか。だって、サッカーとか野球とか、人数足りないから来てくれ!ってわけじゃなくないか。軽音部の助っ人って、なに?

「毎年さ、後夜祭で歌うのが軽音部の恒例行事なんだけど、各学年1バンドって決まりがあんのね。んで俺たち人数少ないから、1年全員出るんだけどさ」
空いていた隣りの席に座った安藤が言うに、バンドとして出演するのはいいんだけど、今まで好き勝手やってきたがためにボーカルが定まっていないらしい。全員演奏するのは好きなんだけど、俺歌いたい!って奴が居なくて、控えめなメンバーばっかりだそうだ。バンド好きのメンバーの中だけなら、楽器をひたすら弾いてるだけで楽しいけれど、盛り上げなければいけない後夜祭という場でそういうわけにはいかないと。ふむ。

「お前さ、前にクラスで行ったカラオケで超歌上手かったじゃん。だからさ、ボーカル頼みたくて」
「つまり、俺に歌って欲しいってこと!?」
「そう!そういうこと!曲はなんでもいい!俺たちが弾けるやつならなんでも練習すっから!頼む!」
「俺は歌うの好きだからいいけど……他のメンバーは本当にいいの?」
如月に声かけるって言ったら大喜びだったから、全然平気!とびきりの笑顔で安藤は頷く。もとより軽音部に入ろうか悩んでいたから、有難いオファーだと思っておっけーを出す。文化祭の後夜祭で、バンド組んで歌うって、超青春じゃん……!俺、高校の文化祭にちゃんと参加できるの初めてなんだよね実は!めちゃくちゃテンション上がって来た!

「やるからには全力でやります」
「学校中の女子を虜にしてやってくれ!三学年で一番盛り上げられたら、他部員からアイス奢ってもらえんだ」
高校生って、アイス賭けるの好きなのか?


***


「あっあの!今日でファンになっちゃいました!」
「ははっ、ありがとね。烏野に来てくれたら毎日会えるよ!」
「「キャー!!」」
「私いまから志望校変えようかな……」
「わたしも……」
「来てくれたら俺も嬉しいなー。あ、投票でうちのクラスに入れてくれたら嬉しいなあ〜」
「もちろん!」
「葵さんのクラスに入れます!」
得意の笑顔で近所の中学生と話しながら、彼女たちの向こうにできてる列に目を配る。久しぶりだなこの感じ……完全なる特典会。文化祭初日を迎える二日前、実行委員から衝撃の事実を告げられた。一年は、客引きできるのが校内オンリーであることを。俺たちはグラウンドから校内へと引き込もうとしていたので、予想外の展開に慌てふためいた。三年がグラウンドで、二年が昇降口、そして一年がフロア。先輩たちは飲食を扱うからそれだけでも人を集められるというのに、ここまでハンデがあるとは。一年はみな同じ場所でお客さんを取り合うこととなる。しかも、行先が決まっているかもしれないお客さん相手に。どーしたら確実にお客さんを集められるか、改めて考えるもののもう時間がない。そこで俺が、この特典会まがいなものを提案したのだ。

「あれ?お姉さんたち二回目だよね?」
「葵くんとまた写真撮りたくて、もう一回チャレンジしちゃった!!」
「毎回同じ謎解きかと思ったら違うから手こずったよ〜」
「え〜俺のためってこと?超嬉しい!えっと、その制服は青葉城西だっけ?」
「うん!覚えてね〜なんならうちらの文化祭にも来てほしい!」
「もう覚えたよ!俺ね、人の顔と名前を覚えるの超得意だから!もう忘れない!」
脱出成功したお客さんに、希望者に限り俺や他に客引きしている生徒たちとツーショットを撮れる権利を与えます!というものだ。これが思いのほかウケており、客引き15分、撮影会45分というハードなスケジュールを繰り返している。俺だけ。いやあ、この顔と対人スキルに感謝である。

「またね〜あ!投票忘れずに!」
「もち!」
「葵くん、うちらのこと忘れたら泣いちゃうからね!」
加えて、撮影時に”一番楽しかったクラスはどこですか?”というアンケートに、うちへと投票してもらえるようお願いしてる。来客数に加え、この投票が大事なんだとか。実際にどこに入れてるかは分からないけど、入れてくれたら嬉しいなーと思って忘れずに伝える。両手で包み込んだ女の子の手をそっと離して、次にやってくる女の子に手を振る。嬉しいなあ、俺に会いに来てくれる人がこの人生でも居てくれて。

「どうぞ〜って、スガさんじゃないですか!それに大地さんも!」
「やほ!凄い並んでんな〜ムカつくぜこのこの〜!」
「ゲーム、なかなか面白かったぞ。めちゃくちゃ凝ってんな」
「あざーす!内容が面白いってとこでもご好評いただいてるみたいなんで、メンズにも人気なんですよ!」
「メンズって!都会っ子かよお前!!」
肘でぐりぐりしてきたスガさんが、今度は頭でぐりぐりしてきだした。ふたりとはそれぞれあの一件から、田中伝いではあれど仲良くしてもらってて、校内で会った時とかは挨拶してりしてる。とはいえ、ここに並んでくれるなんて思わなかったから、ちょっとびっくり。

「燕尾服のお前がすっごいカッコイイって田中が言うから、一目見ようと思いまして」
「えー!?田中が!?俺にはそんなこと言ってくれてないのに!」
「ほらほら、次が詰まってるんだからさっさと撮っちゃいなさい」
「ん?その言い方だと大地さんは俺と撮ってくれないんですか?!せっかくだから写真撮りましょーよー!」
大地さんの腕を掴んで、駄々っ子みたいに揺すれば、これが女子を落とすテクニックなんだなって苦笑いされた。全然そんな気はなかったぞ!大地さんという数少ない先輩と、思い出を俺は作りたいんだ!

「はい、チーズ!っしゃ!先輩とのツーショットゲット!」
「あとで田中経由で送っとくな」
「はーい!あと、俺後夜祭で歌うんで、聞いてくださいね!!」


***


「皆さんありがとーございまーす!俺は今回、ピンチヒッターって形で歌わせて貰ってるんですけど、メンバーみんなめちゃくちゃ演奏が上手くて、何より音楽をめちゃくちゃ好きなんだってことが伝わってきて、歌うのがちょー楽しかったです。そんな気持ちが、聴いてくれてる皆さんにも届いてたら嬉しいなあ〜って思います!次でラストです、今日は本当にありがとうございました!!」
学際だろってーのに、俺は長々とあいさつをしてしまった。これは仕方ないな。と心の中で苦笑いするも、体育館は生徒たちの熱気がいーっぱいで熱くなっている。男子も女子も、両手を上げてノッてくれている。やっぱり、音楽って最高だ!
懐かしい感覚に身を委ねて、包まれる熱気に手を伸ばす。今日も俺は、元気に生きてるぞ!!


20200410