マカロン、君を愛してるよ!

「葵くん!これあげるー!」
「私からも!」

「葵先輩、これ、貰ってください!」
「葵くん、先輩からも貰ってくれる?」

「おいおい、如月の机なんなの?授業受ける気あんの?」
「ハハハー。生まれてこの方、こんなに貰ったのは初めて」
「うっざ!こちとら一個もねぇよ!」
「ひとつ譲れよ!ほい、これとか良くね!市販だろうし!」
「んなっ!ダメだろ返せよ!俺が全部食うんだよ!」
「食い意地はってんな」
「ちげーよ、ちゃんとお礼しなきゃだろ。市販だろうが手作りだろうが、気持ちは同じなんだからよ」
「……おい、こういうところだぞ。お前ら見習えよ」
「「おめぇーもだよ!」」
超絶楽しかった文化祭が終わって、二回の定期テストを終え、冬休みが終わって宮城の雪と格闘しながら登校する日々が過ぎれば、ビッグイベントであるバレンタインがやって来た。ベタに下駄箱とかに入ってたりして!なんて期待したけど一個も入ってなくて、ちょこっと落ち込んでたら教室に着くまでに後輩や先輩、他のクラスの女子から声を掛けられてあっという間に抱えきれない量のチョコレートが手元にやってきた。んで教室にたどり着いたら、下駄箱に入れるのを躊躇った子たちが机の上に置いていったようで、ラッピングされたそれらが大量に置かれていて。想定外の量に持って帰り方を悩んでたら、クラスの女子たちがチョコを持ってくるために持ってきた袋を分けてくれた。おかげで俺の机の両サイド、ならびにロッカーの上は紙袋だらけだ。田中は意気消沈しており、こちらを振り返ってくれない。

「まあなんだ、そんな君たちに俺からマカロンをやろう」
「うげぇ、男からもらうバレンタイン……」
「いらないんなら持って帰るけど」
「い!り!ま!す!」
「つかマカロンって作れるもんなの?」
「案外いける。ほーら田中、お前はこっちな!」
渋々、といったようにこちらを振り返った田中にいつもの保冷バッグを手渡す。その中身はおにぎりではなくて、お弁当だ。さっきのマカロンも一応いれてある。田中はそれを受け取り、これだからお前のことは嫌いになれねぇんだよぉおおおと、泣き出した。

「どう?美味い?味が心配だったんだけど、」
「まさか学校でマカロンが食えると思ってなくて、驚きで声がでねぇ」
「いや声出てますよ」
「るっせ!美味くてコメントに困ってんだよ!」
「それは安心ですわ〜あ、田中さ、今日バレー部一緒に行ってもいい?」
スガさんと大地さんにも渡したいんだよね。泣きながらマカロン食ってる田中は、部活を思い出したのか涙がピタッと止まる。大方、潔子さんからチョコが貰えるかもしれないと考えているんだろう。貰えるといいな、神頼みしとこ。


***


「俺は葵のせいで下手な手料理を食べられなくなっている気がする」
「んなこと潔子さんがお弁当作ってきてくれたら食うだろ」
「んっなっ、きっ潔子さんがそんなっ、俺のためにっ!」
「妄想だぞーおーい」
エナメルを肩から下げて歩く田中と、小さい紙袋だけ持って歩く俺。必要なのはスガさんと大地さんに渡すマカロンだけなので、他の荷物はあとで取りに行くことにした。正直、持ち歩ける量ではないのだ。
部室につけばここで待ってろと言われ、扉の前で立つ。バレンタインデーである今日は、部活が始まってしまう前にチョコを渡そうとしてる女の子たちが浮足立ってるのかと思ったけど、部室前は案外静かだ。もうとっくに告白タイムは終わった感じ?

「おーう如月、どーした?」
「田中に言われて出て来たが……」
「ちわっす!これを先輩たちにも渡したくて!」
部室から現れた二人に会釈して、紙袋から包みを取り出す。えーっと、黄緑のリボンが大地さんで、黄色がスガさん!二人の前に差し出すと、ポカンとした顔でそれと俺の顔を往復してる。この感じ、何かやらかしてしまっただろうか。クラスメイトも普通に喜んでくれたからなんにも気にしなかったけど、男からバレンタインでお菓子貰うって……あんまりあれかな。この世界?時代?はまだまだそういったことには寛容じゃないのかな。いやべつに俺が男性が好きぃ!!!ってわけじゃないけども!!

「わっ悪い、まさかお前が俺たちにまでバレンタインくれるなんて思わなくて」
「あっそっちですか?俺てっきり気持ち悪ぃって思われたのかと……」
「いきなり呼ばれて、こんなかわいいラッピング持ってこられたらビビるべ!そりゃあ!」
まあでも如月の作ったお菓子美味しかったし、素直に嬉しいよ。ありがとな!優しい手つきで頭を撫でてくれるスガさんと、重ねてお礼を言ってくれる大地さん。嬉しくて俺の顔は溶けてしまいそうだ。

「でもさー、如月がこんだけ料理上手だと、彼女さんも大変だな。」
「チョコもいっぱい貰っただろ?うちのクラスにも如月にあげるって、話してたやつ結構いたよ」
「ありがたいことにいっぱい貰いました……けど、俺彼女いませんよ?」
二度目のお口あんぐりタイム。彼女が居ないことは田中も知ってるから、てっきり先輩たちも知ってると思ってたんだけど違ったかな。二度目の人生、青春しようぜ!って決めたんだし恋愛のひとつやふたつしてもいいかなーって思ったんだけど、精神年齢がまだ追いついてないというか、なんとなくみんな年下に見えちゃうし、特定の人を作るのって、なーんか、ね。モヤモヤってしちゃうんだよね。

「俺、我儘なんですよ」
「如月ぐらい顔が良かったら、我儘くらい聞いてくれる女の子居るでしょ」
「いや、違くて……みんなに愛されたいんです。ひとりにじゃなくて」
アイドルをしていたころ、俺のことを好きな人もいればアンチと呼ばれる人たちだっていた。SNSで浴びる誹謗中傷。わざわざ俺の列に並んで、嫌味をぶつけてくるアンチ。ほかのメンバーには放っておきなって言われて、それなりの対処をしてたけど、本当は彼女たちにだって俺を好きになって欲しかった。だから、今の人生は幸せなんだ。俺のことを嫌いな人も居るのかもしれないけど、今のところ直接的に感情を寄せてくれるものは好意しかないから。

「余計な話してすみません!んじゃ、部活頑張ってください!」
俺がほんの少し暗い顔をしたからだろうか、重たい空気が漂ったために切り上げようとした。けどそれは見事に、大地さんの制止によって留められる。

「お前さ、バレー部のマネージャーやりなよ」
「……え?」
この人生で一番の驚きが、突如降ってわいた瞬間だった。


20200411