澤村side
「こいつをうちのマネージャーにしようと思う」
清水にそう伝えたとき、わずかながら目元が見開いたのが分かった。あまり表情を変えない彼女だが、この時ばかりはほんの少し戸惑っていたように思う。清水が役立たずとか、そういうわけじゃないんだ。清水がどれほど努力して、どれほど俺たちのために動いてくれているのか分かっている。だから、だからこそ、もうひとりのマネージャーが欲しかった。俺たちは、全国へ行きたいのだから。
「うまくやってるっぽいなーさすが葵」
「コミュニケーションに長けているし、女子の扱いが上手いのが如月ですもんね……」
「清水もなんだかんだ受け入れてくれて、安心した」
じじくさーと笑うスガを叩いて、部員にタオルとボトルを配るふたりの元へと近づく。気づいた清水が、俺の分を手渡してくれた。
「葵、わたし倉庫行って来る」
「なんか運びます?力仕事なら俺がやりますよ!」
「ううん、ギブス持ってくるだけだから。ノートも取りに行きたいの」
「りょーかいです。こっちはお任せください!」
ニカっと真夏の太陽かと思うような笑顔を見せた如月にも、清水は変わらぬ表情で体育倉庫へと歩き出す。学校中がこいつに靡いているというのに、流石は清水。
「……いや待て、清水いまなんつった?」
「え?倉庫行くって言ってましたよ?ついでにノート取りに行くって」
「違ういっちばん最初!如月のこと、名前で呼ばなかったか?!」
「あー……なんか、潔子さん曰く、初めての後輩?あ、マネージャーのって意味なんですけど、だから仲良くしたいから名前で呼ぶって、そう言われました」
あの清水が、自分からそんなことを言うなんて。驚きで思わず涙が出てきた。
「って大地さん!そんなことよりテーピング外れてますよ!」
「あっああ……悪い、」
「これ自分でやったんですか?めっちゃ綺麗!でも、薬指に巻くときは〜」
ひとりで喋りながら、楽しそうにテーピングを巻き直す如月。そうだ、俺は烏野が全国に行くに当たって、”こういう面”でのサポートができる人間が欲しかったんだ。あの体育の授業で、応急処置を買って出た時から、叶うならと考えていた。
「はーい出来上がり!お風呂入って取れちゃったら、また明日俺がやるんで言ってくださいね!」
「おう。ありがとな」
テーピングを巻いてくれた反対の手で、自分より少し下にある頭を撫でてやる。こうするとものすごく嬉しそうに頭を摺り寄せてくるのは学習済みだ。きっと、あれは本心でありこいつを作り上げている根底にあるものなんだろうと、思わされる。『みんなに愛されたい』それが感じられる瞬間だから。
季節は間もなく春。部員の減少とあの事件とで少しピリついていた体育館に、暖かな春風が舞い込んできた。
***
如月side
大地さんに誘われて始めた、バレー部のマネージャー。自分はずっと表に居て、裏方の人たちの大変さを知ってるが故に心配しかなかったのだけれど、マネージャーの先輩である潔子さんは丁寧に仕事を教えてくれるし、仕事ぶりを褒めてくれる先輩や、感謝を伝えてくれる選手たちに囲まれて、これはひょっとして天職なのでは?と思えてきた。ちょろい奴である。
「葵、ルールは覚えられそう?」
「大まかには理解しました。細かい戦略とかはまだちょっと……」
「ひとまずルールが分かれば大丈夫。スコアも、しばらくは私がつけるね」
潔子さんとの会話は、テキパキと進む。余計なことが含まれていないというか、元々口数が多い人じゃないから、探って来るようなこともしないし、こちらもしない。必要なことを話して、時に今日はこんなことがあったーって話を聞いてもらって終わる。それがなんだか、心地いい。
春休み期間中は、練習する時間が丸っと取れるから10時開始とかなんだけど、学校始まったら朝練始まんだろうなーと思うと、ちょこっとだけ起きれるか心配になる。起きるのは問題ないけど、お弁当手抜きになりそう。それだけは避けたい。三大欲求のひとつを俺は大事にしたいのだ。他ふたつを削ってでも!!あと、本当は春休みも東京に帰る予定だったから、京治に電話で事情を話したらめちゃくちゃつめられた。そんなに俺に会いたかったの?可愛いなあって言ったら黙られたので、およよ?と戸惑いを隠せなかったのは記憶に新しい。京治は表情に出ないので行動で感情を読み取るしかないのだ。まあ電話なんですけど。
「どんな一年が入って来るかね〜」
「可愛いマネ入ってこねぇかな」
「俺というものがありながら、そういうこと言うの?!」
「如月は別に可愛い枠ではないだろ」
「料理できて運動音痴、ってだけ聞いたら可愛いんだけどな」
「けっ!木下も縁下も酷い!うぇえ〜ん成田ぁ〜!」
「ちょっ、こっちくんなよ!いまおれ汗臭いから!!」
「そこ!?お前突っ込むところ違うだろ!!よく見ろお前の前に居るのは男だ!!ちびだけど!!」
「この中では小さいけど別にちびじゃありませーん。170は無いだけですー」
「肘置きに丁度いいもんなあ、葵」
「だあっ!やめろ田中!喧嘩売ってんのか!!買わねぇぞ!!」
「買わないんかい!!」
20200412