春うららを始めます

「どうして俺は、縁下と同じクラスになれないんだ……」
「学力の問題です」
「てかさ、別に頭悪くないじゃん葵。科目によってはトップだったりするし。なんで進学クラスじゃないの?」
「それ聞いちゃう?久志くんは聞いちゃうんですか?」
「言いたくなきゃ聞かねーけど?」
「聞!い!て!これにはふかーい理由がありまして」
「おお、いつになく如月が真剣な顔」
「試験の二日前にね、兄ちゃんに呼び出されてさ。まあまあ暴れまわってたわけよ」
「ヤンキーかよ!」
「田中じゃねーんだし」
「んだとォ?!」
リアルヤンキーだったんだよなあこれが。笑いながらあの日のことを思いだす。中学生の頃から所謂不良グループとつるんでた兄ちゃんは、知らず知らずのうちにそちらに染まっていき、宮城に来てからも素行がよくなることは無く。いやまあ学校のガラス割ったりはしてなかったらしいけどね、バイクは乗り回してた。んでそんな兄ちゃんに捕まった試験の二日前。兄ちゃんの仲間と一緒に車に乗せられて、知らない町というか村というか……そこら辺を走り回っていたのだ。ちなみに両耳に開いてるピアスも、兄ちゃんのせいです。寝てる間にばちーん!ってされて号泣した。

「ラストスパートかけられず、寝不足のまま試験に挑んだわけ。良かったよ受かって」
「その話より、寝てる間にピアス開けられた話のが恐ろしいんですけど」
「まじ気をつけなね!?枕元血だらけになるから」
「女子に人気な如月も、案外苦労してんだな……」
「葵、ひとり暮らしってことは兄貴はもういねーの?」
「おん。東京行った。彼女に不良で居続けるなら別れる。って言われてからは好青年になったよ」
「ヤンキーも惚れた女には弱いのか……」
 大地さんのとこに行くらしい田中を見送り、形だけの勧誘を行う。一年生たち、キラキラしてていいなあ。制服も綺麗だし、初々しさがいい!目とかキラキラしちゃってさあ!……うぉ、あのノッポくんは目が死んでるご様子だけど……いや、なかには居るか。こういう新学期みたいなのが苦手な子。でもでも、第一印象は大事だぞ〜って念を送っておいた。そしたら女の子たちが突然前に現れた!なぬ?!

「如月先輩!私たちのこと覚えてますか?」
「烏野、来ちゃいました!!」
スカートをひらりと翻しながらやって来た女の子ふたりぐみ。ひとりは茶髪のショートで、ひとりは黒髪のツイン。メイクにはまだ不慣れなのか、ちょこっとだけアイラインがはみ出ちゃってる。そんなところも、一年生っぽいなあ。

「文化祭に来てた子だよね?覚えてるよ!ようこそ烏野へ!本当に来ちゃったんだ!」
笑顔で返せばふたりは嬉しそうに俺が持ってるチラシを受け取ってくれた。けど女の子だからなあ、うちは男バレだから貰ってもしょうがないかも。

「如月先輩、バレー部なんですか?」
「うん。まだ入部して二ヶ月、は経ってないか。まあそんくらいなんだけどね」
「えーじゃあバレー部入ろうかなあ」
「ん?うち男バレだよ?てかダメだよ、ちゃんと自分の人生なんだから、やりたいって思ったことやらなきゃ!」
うわあ……て顔してる縁下を余所に、彼女たちを説得する。でもぉ、と引っ張ろうとするもんだから、優しく頭を撫でて宥めた。俺を好きで居てくれるのは嬉しいことだけど、俺に彼女たちの人生を全振りさせてもいいことなんてない。今の俺は、彼女たち全員を幸せにする方法がないのだから。もう、アイドルではないので。

「なあ、如月」
「んー?」
「あの子たち、マネやりたかったんじゃない?お前が選手だと思って」
「……はっ!!!その手があったか?!」
「まああの感じじゃ、練習多すぎて辞めちゃう可能性あったし、対応としては正解だと思うけど。やっぱり如月は如月なんだなって、改めて思ったわ」
今度は呆れ顔の縁下とふたり、並んで歩きながら体育館へと向かう。途中合流した成田と木下は、全然勧誘チラシが減ってなくって笑ってやったら、イケメンパワーは卑怯だ!ってキレられた。仕方ない、この顔に生んでくれた母上に言ってくれ。


***


「で、大地さんに怒られて追い出されたと」
「はい」
「っス」
「ひゃっはー!面白すぎだろ新入生!人生やっぱ顔上げて生きたもん勝ちだよな!こんな面白いことに出会えんだもん!」
「あっ、あの!先輩は、どうしたらいいと思いますか?」
「それ俺に聞いちゃアウトなんじゃね?たぶんそっこーでバレる!俺嘘つくの苦手なの!」
潔子さんと手分けしてドリンク作りから戻ると、体操着の一年生がふたり、ドアの前に立ち尽くしていた。ことの事情を聞くと、教頭の前で喧嘩して、挙句に大地さんを無視し続け(そのまま喧嘩続行したらしい)、とうとうあの仏の大地さんの堪忍袋の緒が切れたらしい。ひょえ〜よっぽどだなあ〜。ふたりは今も、一定の距離を保ちながら話し合っている。話し合うんだから近寄れよつったら、こいつのこと嫌いなんで!って言いきった。超ウケる!!

「でも嫌よ嫌よもスキのうち、だよ?いっそ思い合った方が幸せだよ?」
「?どういうことスか?」
「影山くんはお頭弱い系なの?こんなにイケメンで高身長なのに!?今どきはそういう子が流行りなの?!」
「先輩凄いですね!一発で見抜いちゃうなん、いててて!いてぇ!縮むだろ!!」
「なんかムカついた」
いがみ合おうとするふたりを出来る限り引き離して、一旦クールダウンしてもらう。犬猿の仲的な感じなのかな。目が合ったら即喧嘩的な。ヤンキーじゃん。

「あの、先輩は部員じゃないんスか?練習、始まってますよね」
「うん。俺はマネージャー!名前言ってなかったよね、二年の如月葵です」
「マネージャー……」
「男なのにって思った?それとも身長!?170は無いけどチビじゃないからね!日向よりは大きいよ!」
「なっ!!そんなに変わんないです!!」
「なんてな!俺は大地さんにスカウトされて?うーん、お誘いのもとマネージャーやってるんだ。二ヶ月くらい前から。『もう一度全国に行くためにお前の力が必要なんだ!』なーんて言われちゃって。そこらのプロポーズよりもキュンとしちゃう台詞言われたもんで、断ることもないかなって」
「バレーやってたとか?」
「おい影山、敬語使えよ先輩だぞ」
「んやいいよ。そういうの苦手だし。えっとねぇ、バレー経験は無し!俺にできるのはご飯の用意と、怪我の一次対応だけ!なんだけど」
「おい葵!!ドリンク遅せぇぞ!!!」
「っと、ごっめーん田中!今行く!ってことでごめんね!無事入部できるように祈ってるよ!」
デコボココンビに手を振って、ボトルが入った籠を持ち直す。後々、スガさんに話を聞いたら、去年中学の試合を見に行った時に出てた二人だったらしい。あの三人が大興奮してた面白い試合の子たちかあ。益々面白いじゃんか!試合云々はよくわからんけど、メンツ的に面白いことになりそう。

木下とふたりでネットを片づけてたら、ドアの方から叫び声が聞こえて、また笑ってしまった。高校二年生は、どんな一年になるかねぇ。


20200413