第2Q
昼休み。冬玖と黒子はカントクから本入部届けを貰いに2−Aに赴いた。教室のドアを開けるとすぐ近くの席に彼女は座っている。だが黒子がカントクの目の前に立っても気付く気配はなく、バスケチーム育成ゲームに没頭していた。此方を全く見ずパックの牛乳を飲む姿に痺れを切らしたのか、黒子が口を開く。
「……本入部届け下さい」
「(ドォブフォ!!)」
『(……まあこうなるよな)』
案の定彼女は口に含んだ牛乳を盛大に噴き出した。冬玖は微妙な表情(あまり出ていない)をしながら自分が話し掛ければ良かったと後悔した。
「アンタいつの間に!?」
「……さっきからです」
『俺も下さい』
「
二人目!?」
『バスケにそんな用語ないですよ』
目玉が飛び出る勢いで冬玖の出現にも驚くカントク。よくわからない言葉まで口から飛び出す(余談だが黒子の異名である「
六人目」はバスケ用語で「ベンチスタートのサブメンバーの中でも特に活躍出来る選手」を意味する。本来なら)。
零れてしまった牛乳を拭き取りカントクは溜め息を吐いた。
「まだ誰も来てないのに…見た目に反してせっかちなのね。まあ即戦力だから大歓迎だけど」
「ありがとうございます」
『どうも』
はい、と渡された本入部届けを二人は受け取る。早速記入して提出しようと踵を返すと、「あーそうそう」と後ろからカントクが呼び止めた。
「ソレ、受け付けるのは月曜の朝8:40屋上で、だから!」
「え、」
『月曜朝8:40?』
「ま、そういう事で。よろしくねー」
そう言ってヒラヒラと手を振り、カントクは冬玖と黒子を見送った。月曜日の朝と言えば朝礼だ。その5分前に、屋上で一体何をするのだろうか。彼らは怪訝そうに顔を見合わせた。皆目見当がつかない。ふと冬玖は携帯を取り出す。何かを忘れている気がしたのだ。携帯のカレンダーを開くと其処には。
『あ、』
「どうしたんですか?」
『(しまった……)悪い黒子、先に教室に戻っていてくれ』
階段を下りかけていた足を止め、冬玖は不思議そうな顔をする黒子に断りを入れると元来た道を引き返した。少々早歩きで廊下を進み、また2−Aの教室まで来るとドアを開ける。
『すいませんカントク、月曜朝8:40って来週のですか?』
「ええ、そうだけど…どうかした?」
『その日は朝から用事があって…学校も遅刻ギリギリに行くつもりだったんです。あ、ちゃんと学校側にも許可取って』
「そういう事。大丈夫よ、受け付けは毎週やるつもりだから」
『……月曜朝8:40屋上は固定なんですか』
「じゃなきゃ意味ないもの」
『はぁ……』
取り敢えず冬玖が危惧していた事は問題ないようだ。期限が来週までだったらどうしようかと内心焦っていた彼は安堵した。だがやはり意味がわからない。何故朝礼の5分前?
『(大観衆の前で部活の抱負でも力説すんのか?)』
***
a.m.8:40
「1−B 5番!火神大我!!」
『え?』
「『キセキの世代』を倒して日本一になる!」
『は、』
マ ジ か 。
本入部届けを貰ってから数日過ぎ、月曜日。朝の用事を済ませ朝礼が始まるギリギリの時間に登校して来た冬玖は、突然空から降って来た絶叫に思わず固まった。聞き覚えのある声…と名前。冬玖の脳裏に一つの言葉が甦った。
「月曜朝8:40屋上」。
『(コレか……!!)』
確かに思った。なんとなく予想はしてた「大観衆の前で部活の抱負を力説」って。だがそれは所謂半信半疑、冗談半分というやつであってだな……!!
動揺なう(´・ω・`)である。
火神の日本一宣言で校庭はザワザワしている。生徒皆が校舎の屋上を見上げて困惑顔だ。次は誰がやるのかと冬玖も見上げていたが、中々二人目が来ない。黒子も其処にいる筈なのだが……。そう思って見上げ続けていると怒声が聞こえた。生徒ではなく、教師の。
……どうやら二人目が
犯行宣言に及ぶ前に現場に急行した教師が到着して御用となったようだ。哀れ
犯人バスケ部。恐らく
警察教師陣による
取り調べ説教は長い。
釈放解放される頃には朝が終わっている事だろう。
『…まあ、無罪放免なワケないだろうな……』
何らかの制限がバスケ部には課されるであろう事は想像に難くない。
何と言うか、物凄い破天荒な事をする部活である。だがそれだけ本気なのだろう。こんな全校生徒プラス教師陣達のいる前で目標を宣言させたのは。
本気の人間しかいらない。
そういう事なのだ。
その点に関しては火神の宣言は満点と言える。帝光中学校から輩出された無敗を誇る5人のバスケの天才達───「キセキの世代」。そんな彼らを倒して日本一を目指すと宣った火神の計り知れない闘争心は…一体何処からやって来るのだろうか。
『……俺も何かするべきか…』
己の覚悟を理解して貰う為に。
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