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第1Q


「あなた、その左腕はどうしたの?」
『……え?』


ようやく身体から目を離したと思ったら今度は左腕に矛先が向かった。突然話を振られた冬玖は聞き返す。


「いえ、数値的には問題もないけどテーピングをしてるから」


冬玖の左腕には二の腕から手の甲にかけてテーピングが巻かれている。本来テーピングはスポーツ傷害の応急処置や予防に使われる。


『あー…怪我とかではないです』
「じゃあ予防?」
『……というワケでも…』


妙に歯切れの悪い冬玖をカントクは不思議そうに見るが、何か事情があるのだと思い「何かあったら言ってね」とこの話を終了させた。冬玖はあまり深く追求されなかった事に安堵し、それと同時にカントクに感謝した。


「……で、次は…」
「全員視たっしょ。天川でラスト」
「あっそう?……れ?」


冬玖のデータ採取が終わり、カントクは次の入部希望者に移ろうとするが、眼鏡の先輩にラストだと言われた。その事に納得しかけたカントクだが、彼女は昨日一番の衝撃的な出来事を忘れてはいなかった。冬玖も冬玖で『……俺でラスト?』と疑問符を浮かべている。


「……黒子君てこの中いる?」
「あ!そうだ帝光中の……」
「え!?帝光ってあの帝光!?」
『(帝光……?マジか)』


帝光中……バスケで全中3連覇を成し遂げた超強豪校として知れ渡る中学校の名。そんなバスケ界では有名過ぎる程有名な学校出身の人間がこの新設校に入学して来るとは夢にも思わない。否、思わなかった。だが実際あったのだ。

出身中学の欄に帝光中学校と書かれた、「黒子テツヤ」という生徒の入部届が。

一方で帝光の名を聞いた冬玖は瞬きを繰り返す。
───本当だったのか(・・・・・・・)、と。


「黒子!黒子いるー!?」
『(ぶっちゃけ半信半疑だったんだが……)』


慌てて「黒子」を探し出す先輩達。カントクはあんな強豪にいたのなら視ればすぐわかると思っていたのだが、今の所そんな生徒はいなかった。確かに火神や冬玖の身体能力には目を見張ったが、彼らは帝光中出身ではない。二人とは別に素晴らしい数値の持ち主がいる……筈なんだが。仕方ない、とカントクは一旦「黒子」探しを中断する事にした。

そんな中。冬玖は表情は変わらずとも驚いたように、自分の()を見る。コイツが……


「今日は休みみたいね。いーよ、じゃあ練習始めよう!」
『あ、』
「あの…スイマセン、」


「黒子はボクです」


二拍程の間の後、体育館にカントクの絶叫が響いた。

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