第1Q
『得意なポジションだろ?ねーよ』
「待て待て待て!ねぇってどういう事だ!!」
『ねーもんはねーんだよ』
衝撃が走った。得意なポジションが、ない?火神は唖然とする。入部届を出したあの日、確かに冬玖から感じられた。強い奴の「独特の匂い」が。握手をした昨日も、そして今も。その「匂い」は変わらず感じられる。だが彼は得意なポジションはないと言う。自分は一体、冬玖の「何」に強いと感じ、闘志を湧かせたのだろうか。
「得意なポジション無しで今までどうやって来たんだよ?」
「そうだって!あ、でも昨日……」
『ああ、全中の時はシューティングガードだった。確かに他のポジションより回数は多いけど…得意ってワケじゃない』
「ええええ……」
全中で帝光中と対戦した時はシューティングガードだったと昨日黒子が言っていた。なのに冬玖はそれさえも得意という訳ではないと言う。黒子は彼が得意と言う訳ではないポジションで自分達と迎え撃っていた事に驚いた。
あれで得意と言う訳ではないと言うのか。
『まあ…得意なのはねーけど、』
「?」
『俺はどこのポジションでも足手纏いにならない自信はある』
それなりに出来るぜ、と言う冬玖。ある意味問題発言をした彼に困惑していた1年達だったが、その姿がふざけているようには見えなかった。
『ガードならポイントガードとシューティングガード。フォワードならスモールフォワードとパワーフォワード。で、センター…あ、これじゃ全部だな』
「は?」
『あと特別なポジションなら、コンボガード、スウィングマン、ポイントフォワード、フォワードセンター…これも全部か』
「ちょ…おい……」
マジかよ。1年組の心の声は見事にハモった。指折り数えながら次々とポジション名を上げて行く冬玖を信じられないような目で凝視する。
「それって『万能選手』ってやつじゃ……!?」
『何言ってんだよ。バスケに於いてユーティリティープレイヤーなんてザラだぞ。特にNBAじゃほら、ジョンソンやメイソン、レブロンにオドムなんかがポイントフォワードやってるだろ』
ポイントフォワードはフォワードでありながらポイントガードの動きをする稀な選手だ。司令塔をやりながら得点源となるなんてどうやれと言うんだ、というのが周りの意見である。
『さっきはポジション決めを強要したが、バスケってポジションはそれ程厳密なもんじゃねぇんだよ』
各プレイヤーが多くの役割をこなすのが理想的と言われる。そしてその理想を目指し、追い求めた結果が、今の冬玖なのだ。一芸ではなく多芸。「多芸は無芸」という言葉通り、彼には特化した技術は持っていない。だが、
遍
く技術を取り入れる事で冬玖は特化型ではなく万能型となる事を極めたのだ。
『……まあ、だからと言って俺一人でバスケが出来るワケじゃねぇけどな。俺、シューティングガードやるわ』
「お、おう……」
「わかった……」
コイツ……ヤバいんじゃ…?
火神は武者振いが止まらなかった。そういう事か、と。
特に優れた技術がないだけで、冬玖の全体的なレベルは半端なものではないのだ。
その後、7番のゼッケンを付けた福田が体格的にセンターに、15番の黒子がスモールフォワードになり、ミニゲームが開始された。
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