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『此処か?』
《ああ、間違いない》


治安の悪い路地裏に入り十数分。プルースは古い屋敷に辿り着いた。蜘蛛の巣が張る窓。寂れた外観。とても人が住んでいるようには見えない程廃墟と化している。だが人の気配はする上耳を澄ませると微かに人が立てる生活音が聞こえた。


『……入るか』


プルースは門の扉に手を掛ける。たったそれだけで扉はギシリ、と音が鳴った───瞬間。


《プルース、来るぞ》
『!』


テノールの声が鋭く言葉を放った。それに反応し、プルースはすぐさまその場を飛び下がる。ドスッという音を立て、先程まで彼がいた場所に斧が振り下ろされた。


『これはこれは……』


プルースに向かって斧を振り下ろしたのは10を過ぎたばかりの子供だった。ボロボロの身形をしている彼を見てプルースは軽く目を見張る。地面にめり込む斧は目の前の子供が持つにしては些か大き過ぎるのだ。


《其奴は「刎頸児童(アクシングネック)」》


携帯からテノールの声が聞こえる。まるで何処からか監視しているかのように、テノールは今のこの状況を把握していた。冷静に情報をプルースに与える。


《その名の通り、斧で首を()ねて殺す子供》
『……で?』


次々と繰り出される攻撃をひらりひらりと躱しながら、プルースは携帯に耳を傾ける。素人とは言えないその動きに「刎頸児童」という通り名が付くのは納得出来る。だがプルースが聞きたいのはそれではなかった。


《──「対象(アウト)」だ》
『──了解』


その言葉を聞き、プルースはふわりと舞い上がったコートの下に手を忍ばせた。その手が目当てのものに触れたその時、目の前にまで迫った「刎頸児童」が斧を振り上げる。その刃が、プルースの(くび)へ───


Terrific(おみごと)


とんっ、とブーツの固い生地が地を叩く音がし、テノールの声は称賛の言葉を漏らす。プルースは手に持つそれ…漆黒の三日月型をした刃を軽く払い、付着した紅い液体を飛ばした。

───そうしてようやく、「刎頸児童」の頸がころりと落ちたのだった。


『まだ「対象」はいるのか?』
《「ヒトラーの権化」は勿論、それを取り巻く子供が結構》
『……洗脳か?』
《崇拝、盲信、妄信。それら全ての発端という意味で言うのなら》


一つの幼い命をいとも簡単に奪ってみせたプルースに動揺した素振りは微塵もなく、古びた門を開け中へと入って行った。

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