「うぅ…おなか痛い腰痛いふらふらする…女やめたい…」
ふらふらと基地の廊下を歩いているのはユウ。
顔をしかめ、ぶつぶつと何か言いながら歩いているのは下腹部からの握りつぶされるような鈍痛のせいだ。
所謂「女の子の日」、つまり生理である。
ぎゅ、という内臓が圧縮するような鈍痛にユウはもう一度眉間にしわを寄せた。
ユウの場合、いつもこんな痛みがくるわけではない。
ちょうどすこし前に、あまりの暑さに耐えかねてNEST隊員たちとともに飲み会へ行ったのだ。
その際、つい冷たいものを飲みすぎてしまい、今に至るというわけだ。
また、ここ最近は激務で生活リズムが乱れ、自分の周期をいまいち掴みきれていなかったことも原因だ。
くそ、とユウは悪態をついた。
痛み止めの薬を飲んでもほとんど効果は出ていない。
機嫌の悪いユウを恐れてか、今日はほとんど仕事が自分に廻ってこない。
いつもなら喜んでサボりに行くのだが、今は何かで気を紛らわせていたかった。
(…ああ、くそ。)
イライラとしながらゆっくり歩いていると、反対側から黒ずくめの男が歩いてくるのが見えた。
全身黒ずくめの中でもはっきりと分かる無機質な赤い瞳と、咥え煙草を見れば、バリケードだと分かった。
「よう、そんなところで何のろのろ歩いてんだよ?」
にやにやと笑みを浮かべる似非警察官。
じとりとユウは睨みつけるがそんな視線もどこ吹く風。
「…わかってるでしょ。例のアレよ。」
「生理か。」
「口に出して言わないでよ!デリケートな問題なんだから!」
「そんな明らかに生理が原因で機嫌が悪いって空気漂わせといてか?」
「ぐ…」
「まったく、有機生物の女ってのは、面倒だな。」
デリカシーのないバリケードの発言にカチンとして大きな声を出したら腹に力が入ったらしい、どろりと何かが抜け出ていく感覚にユウは眉間に深くしわを刻んだ。
そんなユウを見たバリケードは唇の端をすこし歪ませると、ユウの身体を抱き上げた。
一応ユウの体調に考慮しているのか、俵担ぎではなく、お姫様抱っこである。
バリケードとユウは一応恋人と呼ばれる関係ではあるが、バリケードがユウを甘やかすことなどめったにないため、ユウは純粋に驚いた。
同時に、少し恥ずかしさがこみ上げてきて、ばたばたと足を振った。
「ちょ、バリケード、降ろして恥ずかしい。」
「暴れるな。落とされたくねぇんだったらな。」
さらりとそう返されてユウはおとなしく口をつぐんだ。ただでさえ腰がきりきりと痛んでいるのに、床になんか落とされたら痛みで死ねる。
ぎゅ、とユウがバリケードの首に腕を回すと、バリケードの口許が僅かに上がったように見えた。
連れて行かれた先はクーラーの効いていない空き倉庫。
冷えた指先にじんわりと夏の空気が浸み込んでいくような感覚がした。
「バリケード、ありがとう」
ふん、と鼻で笑われただけだったが、それでもユウはにっこりと微笑むと小さく息を吸い込んだ。
そうして倉庫に佇むこと十分。
冷房で冷えた身体は程よく温まり、下腹部の痛みの心なしか僅かに引いた気がした。
(やっぱり冷えは大敵、か。)
そろそろ仕事に戻らなきゃ、と立ち上がった瞬間、世界が反転した。
否、バリケードに押し倒されたとユウは気づいた。
打ち付けた背中と腰が鈍い痛みを訴えた。
「ちょっと、バリケード。今勤務中。しかもここ基地の中。おまけに生理中。」
「できるかどうかはわからねぇが、俺が十ヶ月止めてやろうか?」
これから起きる事を察したユウの咎める声をスルーしてからのこの発言である。
「は?」
ぽかんとした表情でバリケードを見上げるユウ。
それもそうだ、金属生命体と人間の間に子供などできるわけがないというのに。
「いやいやいや、バリケードあなた金属生命体でしょ?」
「何を今更なこと言ってやがる。」
「だったら無理じゃない!そもそも遺伝子云々の問題がある、で、…」
しょ、と続けようとした言葉はバリケードの唇に飲み込まれて掻き消えた。
突然の口付けにユウは目を見開いたまま、呆然とする。
そんなユウにお構いなしでバリケードは舌を侵入させた。
水音が静かな倉庫内に響く。
どれだけ時間が過ぎたのだろうか。
息苦しさにユウがバリケードの胸をばしばしと叩くと、しぶしぶと言った様子でバリケードが身体を離した。
「遺伝子の問題はオートボットの軍医に何とかしてもらえば良いだろ。」
にやりと笑っていう目の前の似非警官に、ユウは呆れたように小さくため息をついた。
確かに、ラチェットなら「トランスフォーマーと人間の交配か。面白そうだからやってみよう」などと言い出してやりかねない。
でも。
(…悪くは、ないかも。)
「じゃあ、まずは私のこれが終わったら、二人でラチェットのところにでも行こうか。」
にっこりと笑って言ったユウの唇に、バリケードがもう一度噛み付くような口付けを落とした。