かくん、と頭が落ちた気がして目が覚めた。
どうやらいつの間にかうたた寝をしていたらしい。
ふと部屋の向かい側に座って本を読んでいる男に目をやった。
青みがかった銀色の髪と無機質な赤い瞳の彼はユウが友達になかば無理やり押し付けられた恋愛小説を黙々と読んでいる。
砂糖をはきそうなほど甘ったるい言葉の数々や、ベタな展開に耐えられず、半分読んだところで読むのをあきらめてしまった。
そんな小説を読むサウンドウェーブの顔は赤いバイザーによって半分以上を隠されていて、何を思いながら読んでいるのか、わからない。
否、きっとバイザーをはずしても無表情ゆえに判断することはとても難しいだろう。
彼はオートボットたちよりも表情に乏しいディセプティコンの中でもさらに表情が少ないのだ。
何を考えているのか察することができるのはきっと彼の主たるメガトロンと彼のドローンたちだけだろう、とユウは思う。
かくん、とまた頭が落ちたような気がする。
そろそろ眠気も限界だ、小説を読んでいるサウンドウェーブには悪いが電気を消して寝ようとユウは立ち上がった。
「サウンドウェーブ、私眠くなってきたからそろそろ寝るね。電気消すよ。」
電気を消す前に一声かけた方がいいかと思って声をかけたユウだったが、音を立てずにのっそりと立ち上がったサウンドウェーブがゆっくりと近づいてくると、戸惑ったような表情を浮かべた。
「…ど、どうしたの?」
「………」
いつの間にかバイザーをあげたサウンドウェーブがユウを見下ろす。
やはり、バイザーがあってもなくても、彼の表情は読めない。
無機質な赤い瞳がただユウを捉えている。
次の瞬間、ユウはサウンドウェーブに勢いよく抱きしめられた。
びっくりマークやらクエスチョンマークやらを飛ばして混乱するユウの頬にちゅ、とリップ音を立ててサウンドウェーブの唇が吸い付いた。
「…愛している、ユウ。このまま離れたくないのだが。」
と、落とされた今まで聴いたこともないサウンドウェーブの糖分に塗れた言葉を耳に入れたユウは一瞬だけきょとん、とするとすぐさまサウンドウェーブの額に手を当てた。
「…………。」
「…オーバーヒートとか、エラーは起こしてないよね…?」
サウンドウェーブの表情がわずかに変わった。まさに心外、といったそれだ。
「……俺が甘い言葉を吐いてはダメなのか?」
「……イイエ。ただ、サウンドウェーブがそんなことを言うとは予想してなかったからびっくりしたのよ。」
「なぜそんなことごときで驚く必要が…」
「だってあなた私に甘い言葉なんてほとんど言ったことないじゃない。」
サウンドウェーブの視線があからさまに不自然な方へ飛んだ。
事実、サウンドウェーブはユウに対して「離れたくない」「好きだ」「愛してる」などの言葉を言ったことがない。
告白の際も「お前のことは虫けらの中では気に入ってる。お前の一生を俺にささげろ」という俺様極まりない文章を吐いたのだった。
でも、と言葉を発してユウはわずかに頬を高潮させながら言った。
サウンドウェーブの表情が怪訝なものに変わった。
「珍しくあなたから甘い愛の言葉をいただいて眠気が飛んじゃったの。今夜は眠れそうにないわね。」
と悪戯っぽく言い放ったユウの言葉に喜色を浮かべるとサウンドウェーブはいそいそとユウを抱き上げて寝室へと向かったのだった。